2011/7/29 小話(藤内乱♀)



・小話です
・藤内乱♀
・現代パラレル、成長、にょ乱ちゃん注意です
・浦風藤内のスーパー求婚タイム(未満)




 ちりん、軒下に吊るされた風鈴が風に鳴った。

 しゃわしゃわと降り注ぐように響いてくる蝉しぐれと夏らしく濃く、はっきりしたコントラストを描く葉の影が揺れる縁側に、二人は並んで座っていた。
 そこは乱太郎が両親と共に暮らす家で、隣に座っているのは彼女が心を寄せ、また寄せられてもいる男だった。家の中に両親の姿はない。彼が乱太郎を訪ねて来たときには在宅していたのだが、一刻ほど前にちょっと出かけてくると告げると、連れ立って何処かへと行ってしまった。
 多分、気を使ってくれたのだろう。乱太郎を訪ねてきた彼が、乱太郎と良い仲にあることを二人は知っていたし、彼が携えてきた「何か」に気付いたのもあるのかもしれなかった。

 そう、彼はこの家を訪ねてきたときから、いや、乱太郎と視線を交わした瞬間からどこか様子がおかしかった。この人はこんなに落ち着きのない人だったかしらと何年も付き合いがあるにも関わらず思ってしまうほど、今日の彼は落ち着きがない。
 出した麦茶のコップを倒すし、乱太郎と視線がかちあえばうろうろと視線をさ迷わせる。冷静が服を着て歩いている彼の先輩ほどではないにしろ、年相応の落ち着きは身に着けている人なのに、と乱太郎は彼に気取られぬようくすりと笑った。二つ年上の彼が、なぜか子どものように見えたのだ。
 可愛らしいなんて思っていることがばれたら機嫌を損ねてしまいそうなので、咳をするふりをして誤魔化していると、彼に名を呼ばれた。その声が緊張交じりではあるけれど改まった調子だったので、乱太郎はしゃっきりと姿勢を正した。

「あのさ、実は…」
「はい、なんでしょう?」
「今日は、その」

 その、で言葉を失い、再びそわそわと落ち着かない様子を見せる彼が何を言い出そうとしているのかを、実は乱太郎は知っていた。いや、「知っていた」と言えるほどの根拠があるわけでも、確信があるわけでもないけれど、なんとなく、そうだと良いな、と思っていた。
 彼を落ち着かせずにいるその決意は乱太郎だけではなくて乱太郎の両親にも伝わっていた。だから、二人は乱太郎と彼、浦風藤内という青年を二人っきりにしてくれたのだと思う。二人が帰ってきたら報告しなくちゃなあなんて乱太郎が思っていると、突然藤内が動いた。
 藤内は乱太郎の両肩に手を回すと、乱太郎を引き寄せるようにして向き合わせた。間近で見る藤内の顔は真剣で、先ほどまではあんなに泳ぎ回っていた視線も今は一点に、乱太郎に、注がれている。

「今日は…俺、乱太郎に、聞きたいことがあって」
「はい」
「えっと、あー…どこから言えば良いのか…俺さ、色々考えたんだけど、やっぱり乱太郎がいないと駄目みたいで」
「はい」
「多分、それはこれからも変わらなくて、だから、その……って、何笑ってるんだよっ」
「す…すみません、だって、藤内先輩があんまり回りくどい言い方するから」
「……もしかして、俺が何を言おうとしてるか、知って…」
「なんとなくですけどね。あ、ちなみに父ちゃんと母ちゃんも多分知ってますよ」
「え」

 目を見開いて動きを止めてしまった藤内に、ああ、多分緊張しすぎて良く分かってなかったんだろうなあと乱太郎は思う。そんなに緊張しなくても私の返事は決まっているのに、なんて考えながら、彼の頬に手を伸ばした。
 そしてちりんと鳴り響いた風鈴の音は、二人のこれからを祝福する意味では少しばかりタイミングを誤ったけれど、藤内の口を働かせるには十分な仕事をしたのであった。


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 藤内は前日にプロポーズの予行練習とかしてそうですが、いざ乱ちゃんを前にすると緊張してしまうの希望です(笑)
 空気を読んだ父ちゃん母ちゃんですが、出先で父ちゃんは泣いてるかもしれませんねえ。父ちゃん以上に泣いてそうなのが一杯いそうだとか思ったのはここだけの話です。



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