2011/7/28 小話(庄乱)



・小話です
・庄乱
・成長注意
・あと若旦那が可哀想


 三すくみって、知ってる?独り言のように呟いたのは庄左ヱ門だった。
 彼らしく冷静な、どこかのんびりとした声音に乱太郎はこの状況でよく冷静でいられるねと返答にならぬ言葉を返した。

「というかですね庄左ヱ門さん」
「なに?」
「この体勢は一体どういうことなのかな」
「え、どうして?何か不都合でも?」
「大有りだよ!」

 真昼間の縁側で後ろから抱きすくめられている状況に、乱太郎は思わず大きな声を上げた。こんなことをしている場合ではないのだと自らの腹に回された庄左ヱ門の両の手から逃げようともがいてみるが、庄左ヱ門はびくりともしない。
 六年生の中で非力というわけではないが、力に溢れているわけでもない庄左ヱ門の手から逃れられないのは、乱太郎が庄左ヱ門より非力であることもあるが、庄左ヱ門が簡単には解くことのできない手の結び方をしているためである。それを分かってはいるのだが、乱太郎はなんとかして腹の前で組まれた手を外そうと苦心する。

「無駄だよ乱太郎、そんなに簡単には離さないよ?」
「もー!こんなことしてる場合じゃないんだってばー!く…っ、団蔵や金吾や虎ちゃんならあっさり抜け出せるのにー!!」
「あの三人は乱太郎に弱いからね。ところで三すくみの話に戻るけれど」
「庄ちゃん悠長に何の話してるの!」
「だから、三すくみの話」

 庄左ヱ門は暴れる乱太郎の肩に顎を乗せると、頭巾越しの耳へと囁き入れる。びくっ、と乱太郎が肩を跳ねさせるのをそれはもう良い笑顔で見つけているのに気付いた者はいなかった。

「三すくみっていうのは、三者が牽制し合って互いに身動きがとれなくなること」
「うん、そうだね、その通りだよ、その通りなんだけど!」
「例えば、剣は斧に強くて斧は槍に強くて槍は剣に強いっていう三すくみ」
「その例分かる人にしか分からないから使っちゃダメ!しかもちょっと意味が違う!お願いだから離してったらー!」
「じゃあ、もっと分かりやすい例を挙げよう」
「庄ちゃん相変わらず冷静ねー!!もー!!」

 暴れ疲れてしまったのと叫び続けたのとで乱太郎がくったりと前のめりに脱力すると、庄左ヱ門は乱太郎を抱え直した。そうしてつい、と正面に目をやると冷静に言い放った。

「今、僕たちの目の前で兵太夫と団蔵と喜三太が睨み合いをしてる。兵太夫は団蔵には強いけど得体の知れない喜三太には弱い。団蔵は喜三太に強いけど兵太夫の罠が苦手だ。喜三太は兵太夫には強いけど団蔵には何故か弱い。そんな三人だから自分が得意な相手を攻撃しているうちに苦手な相手に攻撃されると困る。だから睨み合いがかれこれ半刻は続いている。ほら、なんて立派な三すくみ」
「……庄左ヱ門、あのね、それ、ひとつ間違ってるよ」

 乱太郎は解説を終えても自分を離そうとしない庄左ヱ門に、ふるふると首を横に振った。その声は少々涙交じりである。
 なにが違うのかと心の底から不思議そうに、ただし思いっきり楽しそうに問う庄左ヱ門に、乱太郎は叫んだ。

「兵太夫と喜三太が手を組んで団蔵攻撃してるあの状況のどこが三すくみなの!!」
「あっはっはー」
「あっはっはー、じゃない!!って団蔵逃げて逃げて横から宝禄火矢がー…」

 乱太郎必死の叫びも虚しく、中庭にちょっとした爆発が起こった。顔を真っ青にしながら表情を引きつらせている乱太郎の背後で、庄左ヱ門は冷静に、

「ちなみに僕のようにみんなが争っているうちに労せずして利益をさらうことを漁夫の利というんだ」

 と言ってのけたという。

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 私の中の若旦那はこんな感じです。ごめん。いつも。



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