2011/7/21 小話(雷乱)
・小話です
・雷乱(のつもり)
・病み気味な雷蔵とそんな彼を見捨てられない乱ちゃん
・病み気味なお話が苦手な方はご注意ください
きみに何が分かる、彼はそう言った。
きみに狂う僕の何をきみは理解しているのだと、彼は私の手首を握る。
ぎしり、軋む音がして、私は哀しくなった。それは握られた手首が痛いからじゃない。手首から伝わる冷たさと怒りに彼を思う心が軋んで音を立てたからだ。ただ、哀しかった。
ねえ、どうして貴方は私を見ないの。貴方が見ているのは私じゃない。私を想っていると思う貴方自身を貴方は見ているのだ。
それはきっと私が悪いのだろう。私は貴方だけを見ていたつもりだった。貴方だけを好きで、愛しているつもりだった。それに嘘偽りはない。今だって私は貴方の幸せを願っている。願っているのに。
でも、足りなかった。それだけじゃ、駄目だったのだ。貴方の心配を呼び起こし貴方に不安を植え付け貴方の恐怖を育て上げたのは、間違いなく私であったのだろう。私が貴方を閉じ込めてしまった。
彼は彼を護るために私を見ない。彼が見ているのは鏡に映った私なのだ。だから私の言葉は彼に響かない。私は総て私なのに、現実の私は彼に響かない。
もう、どうすれば良いのか分からない。あの日にはもう戻れない。過去を嘆いてばかりはいられない。進むしかないのに。立ち止まりたがる貴方を置いては行きたくないのに。
なのに、なのに。
_ _ _ _ _
残された選択肢をどちらも選べないまま、ただ過ぎていく時間の中で貴方と二人、私は。
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