2011/7/20 小話(ドす乱♀)



・小話です
・ドす乱♀
・女体化、現代パラレル注意




 ふと、聞こえてきたのは、何かの鳴き声だった。
 初めは盛りの付いた猫か何かの鳴き声かと思ったが、それにしては弱々しい。普段ならそんなもの、無視して通り過ぎるのだが、なんとなく足が引かれるままにその児童公園へと足を踏み入れた。

 近くに大きな公園ができた影響なのか、その小さな公園には人っ子ひとりいなかった。風雨にさらされたいくつかの遊具、ペンキの剥がれたベンチ、今にも枯れそうな木々。そういうものがひっそりと詰め込まれた箱庭のような公園の中央に、それはあった。
 いや、いた。

 ちょっとした広場のようになっている公園の中央は、乾いた砂の色をしていた。平坦な地平、と呼ぶにはその公園は狭すぎたが、そこに、明らかに地面の色でない色をした半球上の何かが置かれていた。いや、正確には置かれているように見えただけで、近付くと、その物体は地面から生えていた。そう表現すると、今でもあいつに脛を蹴り飛ばされるのだが、そうとしか見えなかった。
 鋭い奴は気付いたかもしれない、そう、それは人間の頭だった。茜色の頭が、ひょこりと地面から飛び出していたのだ。

「…………は?」

 それが人間の、おそらく三歳から五歳くらいの餓鬼の頭だと理解した瞬間、去来したのは「何故人間が地面に生えているんだろうか」というものだった。馬鹿馬鹿しいと思う奴もいるかもしれない。だが、人間は思いもしない場面に行き当たると、誰しも傍から見れば馬鹿馬鹿しい考えに捕らわれるものだ。
 しかし、俺はすぐにその理由に行き当たった。何のことはない、その餓鬼は穴に落ちていただけだったのだ。

「…しかし見事にすっぽり嵌ってんな」

 ぴったり、その餓鬼が収まるほどの深さ・広さをしたその穴に、何故か妙な感動を覚えてしまったのを良く覚えている。自然に空いた穴ではないというのは見ればすぐに分かった。こんな誂えたように掘られた穴に落ちるこの餓鬼も餓鬼だし、掘った方も掘った方だ。
 俺が穴の傍に立つ頃には、疲れたのかそいつは泣くのを止めたようだった。ぐったりしてるようだったが、とりあえず生きているようだったので安心する。
 だが、勿論そのままにしておくわけにはいかなかった。季節は夏、しかも時間は午後を少し過ぎたばかり。頭だけが飛び出ている状態では自力で上がるのは不可能だろうし、このままでは熱中症になる可能性もある。夕立が来たら最悪だ。
 発見してしまったのは仕方がないので、引き上げてやることにする。

「おい、大丈夫か」
「……」
「おい、返事しろよ」
「……」
「まさか…気絶してんのか?」

 何度か離しかけてみても返事はない。参った。手を伸ばさせてそこから引き上げてやろうかと考えていたのだが、相手が気絶しているとなるとその手は使えない。こちらから餓鬼の手を取るには隙間がなさすぎる。

「…仕方ねえな」

 ため息ひとつ落として、俺は丁度良い具合に穴の外に頭と一緒に飛び出していたフードを引っつかんで、餓鬼を引き上げることにした。この判断が後に俺の人生を狂わせる原因になるのだが、それはそれ。
 ぐ、と力を入れて、一気に引き上げる。思った以上に軽い体は、引きずり出すだけのつもりが空中にまで引き上げることになってしまい、俺は気絶した餓鬼をぶら下げる羽目になった。

「…おい、生きてる…よな?」
「…う…」

 ぐったりしたまま動かない餓鬼に、心配になって話し掛ければ餓鬼はゆっくりと目を開けた。泥に汚れた顔に、その緑がかった目はあまりに不釣合いで、思わずまじまじと見つめてしまった俺は、次の瞬間鼓膜を破るかと思うほどの大音響の叫び声にのけぞることになった。




「なんてこともあったよねー」
「そうだな、きーきーみーみー泣き叫びながら暴れやがって、助けてやったのに礼もしなかったよな、お前」
「猫の子みたく人をつまみ上げておいて、しかも手離しやがったのはどこの誰でしたかねー。それにお礼なら後でちゃあんとしたでしょ」
「あれはお前が悪い、あんな超音波みてえな声上げられたら誰でも驚くだろうが」
「ふん、言い訳なんて格好悪い。しかもさー、あんたずっと私のこと男の子だって勘違いしてたでしょ。阿呆なんだから」
「勘違いされるような格好ばっかりしてたのはそっちだろうが」
「あーはいはい、鈍いあんたに話振った私が悪かったですよーだ」

 あれから二十年近くが経って、あの日猫みたいに泣き喚いていたあいつは未だに猫のように小煩くああだこうだと言ってくる。最初の内は煩いと思うだけだったが、それにももう慣れてしまった。
 それもそうだろう、五歳だったあいつが小学生になり、中学生になり、高校生になり、大学生になり、社会に出て、赤ん坊を抱いて俺の隣に立つようになってからも事あるごとにからかわれれば、慣れもする。


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 普通に更新しちゃっても良かったかもしれないですね、この長さだったら…
 まあいっか。



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