2011/6/28 小話(三治郎→乱)



・小話です
・誰か×乱←三治郎
・成長注意




 届かない。

 最初はただ、物理的な問題だけだと思っていた。いつでも自分の前を行く小さいけれど大きな背中は、歳を重ねる度に近くなっていったから。それは三治郎の努力の賜物であることは想像に難くなく、すぐに、捕まえられると思っていた。
 今、この手を伸ばせば、容易に捕えることができるだろう。その位置まで、三治郎は来ている。

(…でも、届かない)

 それを理解してしまったのは、何年前のことだっただろう。三治郎は走りながら思う。
 いつかこの手が前を走る乱太郎に届いたら、届くと信じて疑わなかったこの錘のような思いは、決して乱太郎に届くことはない。直接確かめたわけではないけれど、まことしやかに囁かれる噂、そして乱太郎と「あいつ」が纏う空気が、「それ」を事実だと言う。
 三治郎は上がる息に眉根を寄せた。軽やかに駆けていく乱太郎の背中に疲労は見られない。

(あいつは、乱太郎の背中を追うだけで精一杯だったはずなのに)

 自分のように望めば触れられるような位置に、あいつはいなかったはずなのに。

(どうして、届いた?)
(どうして、届かなかった?)

 その理由を知る唯一のひとの背中は、森の奥へと消えていった。


【伸ばした指先は空気を掠めて/三治乱】




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