2011/6/30 小話(藤内乱♀)



・小話です
・藤内乱♀、現代パラレル
・二人が夫婦しておりますのでご注意ください
・しかも乱ちゃんは妊娠中




 淡い光の中に彼女はいた。

 爽やかな色で統一された広いリビングルーム、その一角に置かれたアイボリーのソファに腰掛け、一心不乱に何かを書き付けている。
 ああでもない、こうでもないと眉間にきゅっと皺を寄せてペンを唇に当て、ソファに沈み込む。そうしてしばらく考える素振りを見せていたかと思うと、ぱっと顔を輝かせる。再びテーブルに向かい、ペンを走らせ始めた。しばらくするとまた首を傾げて悩み始める。

 三十分ほど前からその作業を繰り返している妻の姿をキッチンから眺めていた藤内は、思わずくすりと笑ってしまった。二十代も後半に差し掛かったというのに彼女は少女のような可憐さを失わっていないと、思う。
 彼女と出会ったのは自分も彼女も小学生の頃であったが、下手をしたらその頃から変わっていない部分もあるように思える。屈託ない笑顔とか、拗ねたときの頬の膨らませ方とか、ふとした瞬間に垣間見える少女のままの彼女に、微笑ましさや懐かしさ、愛しさやそうしたふわふわとしたものでいっぱいになった甘い思いを感じるのだ。

 しかし出会ったばかりの頃はまさかこんな風に彼女と一緒に毎日を過ごすようになるとは考えもしなかったなあ、と藤内は、トレーを手にキッチンを出た。


「こんなところかな?」

 妻がいるリビングに入ると、ちょうど彼女は作業を終えたところだったらしく、ソファに身をもたれさせながら満足げに紙を掲げていた。
 トレーをテーブルに置き、妻の前にココアを、そして自分のコーヒーを並べると、藤内は彼女に何をしていたのか問い掛けた。彼女はココアへの礼を述べると、ちょっと大事な考え事をしていましたと少し恥ずかしそうに言う。

「考え事?それがその紙と関係があるのか?」
「これですか?何だと思います?」

 藤内の問いに問いで応えながら、妻はにこにこと紙を見せてくる。どうぞ、という言葉を最後に彼女はテーブルに置かれたカップを取ると、それを口に運ぶ。にこにこと笑ったまま藤内を見つめてくる彼女は、口で説明する気がないようであった。
 この紙を見れば分かると言うことだろうか。藤内はコーヒーを片手にその紙に目を通した。

「桜、葵、椿、李、蓮、桃…」

 そこに並んでいたのは、花の名前であった。一文字のもの、二文字のもの、三文字のもの、漢字のまま書かれたものも平仮名に直されたものも、行儀良く並んでいる。
 その花が咲く季節のことだろうか。花の名前の横には春夏秋冬の文字がそれぞれ付け加えられていた。

「ね、藤内さん。どれが良いと思いますか?李だったら平仮名でも可愛い気がするんですよね。ああでも桜も捨て難くて…」
「…ちょ、ちょっと待て乱。もしかしてこれって…」
「はい、そうです。名前を考えてました」

 この子の、そう言って乱は優しく自分の腹に手を添える。白い光の中で淡く瞬くその笑顔は、藤内が恋した少女のようでいて、藤内が愛する女性のものでもあり、既に身につけた母のものでもあった。
 思わず見入ってしまっていた藤内は、はた、と気付く。

「でも、なんで花の名前ばかりなんだ?」

 ただ名前を考えていただけなら、他にも候補はあるはずなのに、紙に挙げ連ねられているのは花の名前ばかり。いくつか花をつけぬ植物の名前も見受けられるのだが、やはりその選択には何か理由があるように思われた。
 藤内の問いに、乱は花が綻ぶようにひとつ笑う。

「私は『らん』で貴方は『藤』だから、こどもの名前も花から取ったら良いんじゃないかなって、思ったんです。…ちょっと安直ですかね?」

 一瞬、言葉が出て来なかった藤内は恥ずかしそうに微笑む乱をぎゅう、と抱き寄せる。腹に負担はかけぬように、確かな力で。
 そして藤内が耳元でひそりと囁くと、彼女の頬は花のように鮮やかに色付いた。


_ _ _ _ _

 ものすごい恥ずかしいものを書いた自覚があります。でも反省も後悔もしてねーあるよ!
 しかし「すもも」だと藤内の中の人と同じ名前になりますね。特に意識したわけではないんですけれども…

 また夫婦ネタ書けたら良いな!




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