2011/6/17 小話(伊作→乱)



・小話です
・誰か×乱太郎←伊作
・年齢逆転注意です




 夢を見る。僕の大好きなあの先輩が出てくる夢だ。

 真っ白な光の中で、先輩は笑っている。先輩の性格をそのまま映したような、優しい笑顔は、どこか泣き出しそうにも見えた。涙を流す寸前みたいな、そんな色をしていた。
 僕は、先輩と向かい合って、ただ立っているだけだった。話すことも、駆け出して先輩を抱き締めることも、笑いかけることもできずに、ただ、立ち尽くしていた。

 先輩の茜色の髪が風に揺れている。そこで初めて、「ここ」は外なのだということを知った。でも、周りに溢れているのは圧倒的な白ばかりだったから、そこがどこであるのかまでは分からなかった。多分、学園の何処かだろうとしか、感じ取れなかった。

 先輩は笑っている。新緑色した瞳をゆらゆらと、光と風に揺らめかせながら、笑っていた。幸せそうに、哀しそうに、愛しそうに。
 そんな顔で笑うくらいなら、いっそ泣いてほしいと、僕は思った。どうしてだろう、先輩は幸せそうに笑っているのに、そう思ったんだ。大好きな先輩の笑顔のはずなのに。

 不意に、先輩が振り返った。そこに立っていたのが誰だったのか、僕には分からない。先輩の背後に立つ、背の高いその人は白い光の中にいるせいか、顔がよく見えなかったから。
 でも、僕には分かった。多分、あのひとだと思った。根拠はなかったけど、多分そうなのだと、理解した。

 先輩は、笑っていた。僕に向けていたものと変わらぬ笑顔で、そのひとを迎えた。
 先輩の背後に半ば隠れるようにして立っているそのひとが、先輩に手を差し伸べる。少し照れくさそうに、でも、確かな意志を持って。先輩はひとつ大きく目を見開いて、驚いたようにしていたけれど、僕には分かった。
 先輩は、あの手を取る、と。

 いかないで、そう叫びたかったけれど、口が動かなかった。ゆっくりと「そのひと」に向かって伸ばされる先輩の手が、彼の手に触れる前に取り戻したかったけれど、僕の体は動かなかった。
 笑うことも、怒ることも、泣くこともできずに、ただ僕は、二人を見守ることしかできなかった。

 先輩が彼の手に、手を重ね合わせた。自分より少し背の高いそのひとを見上げて、目を細める。すごく眩しそうに、幸せそうに、愛しそうに笑う。
 その笑顔はさっきまでのものと同じもののはずなのに、まったく違うものに見えた。そのひとへ向かう先輩の心が、僕や、他の人へ向かうそれと色味の違うものだからだと、僕は唐突に理解する。

 どうして、僕じゃないんだろう。どうしてそのひとじゃなくちゃいけないんだろう。
 どうしてですか、先輩。言葉にしたくても、僕の唇は見えない糸で縫いとめられてしまったかのように動かない。
 手を取り合って、僕に背を向けて行ってしまう二人を、僕はただ立ち尽くすまま、見送ることしかできなかった。


_ _ _ _ _


 ただの夢であってほしい。
 そんなの、ただの悪い夢だよと笑い飛ばしてほしい。
 そう、願うのに。
 心のどこかに、この夢はいつか現実になるのだと知っている自分がいる。
 遠くない未来、先輩は自分ではない誰かの手を取って行ってしまうと、知ってしまった自分がいる。



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