2011/6/2 小話(猪名寺幼稚園)



・幼稚園の先生と子どもたちな現代パラレル
・にょ乱、年齢逆転、成長、幼児化注意
・年中さん=伊作たち、年長さん=三郎たち、先生=乱太郎と虎若と伊助です




 大川幼稚園には、出る。何が出るって、それは勿論……。


「そういえば、いるよね。この幼稚園」

 すべての子どもたちを送り出した後の職員室。外はすっかり闇に覆われ、さやさやと夜風が渡っている。静かな夜であった。
 そんな中で、その日一日の業務報告をまとめていた乱太郎がぽつりと呟いた。乱太郎のデスクの真向かいの席で作業をしていた虎若と、横の席でパソコンに向かっていた伊助は、乱太郎の言葉に顔を上げる。

「いるって…何が?」
「んー?一般的にお化けとか幽霊って呼ばれる類のモノ、かな」

 乱太郎はいつもと同じ調子でさらっとそう言った。なんでもないことを口にするかのような声の響きに、しかし虎若と伊助は固まった。しぃん、と元々静かだった職員室に更なる静寂が落ちた。かたかたと乱太郎がキーボードを繰る音だけが響く。
 二人の様子がおかしいことに気付いた乱太郎は、きょとんとした顔で二人の顔を見上げた。

「あれ、二人とも知らなかった?園長先生も他の先生も知ってるよ」
「いや、まあ…話には聞いていたけど…」
「乱太郎が言うなら、マジなのかと思って…」

 若干青い顔をしながら二人は呟いた。

 ここ、大川幼稚園は「出る」ことで有名だった。とは言っても、先生たちの中だけで有名だというだけの話だったし、実際に自分の目で見たわけではない。だから虎若も伊助も信じていなかったのだが。
 二人ともそういうの怖がるタイプに見えないのに、と乱太郎が言うように、テレビや雑誌で見かける「自分には関係のないどこか」の話であれば笑い飛ばせる。しかし、自分が勤めている、しかも自分が今まさにいる「ここ」の話となるとまた別も問題になってくる。
 更にだ。「いる」と言ったのが乱太郎というのも問題なのである。この猪名寺乱太郎女史、のほほんとしていて一見そういうものに疎そうなのだが、見えるとまでは行かなくとも感じるらしい。幼い頃から学び舎を共にしてきた二人は、彼女が普通は眼に見えないものを感じているということをその経験から知っているので、「乱太郎が言うなら本当なのだろう」と言ったのである。

「あはは、大丈夫だよ。ここにいる子は困った類の幽霊じゃないから」
「そうなのか?」
「うん。だって伊作が一緒に遊んでたから。伊作は楽しそうにしてたし、あの子もきっと、みんなと一緒に遊びたいだけなんだと思うよ」

 にこにこと話をする乱太郎に、ああ、確かにあの伊作が怖がったりしていないなら大丈夫だろうと虎若と伊助はほっと胸を撫で下ろした。
 伊作は泣き虫で怖がりな性格をしているが、その伊作が大丈夫だと判断したならおそらくは乱太郎も言うように悪いものではないのだろう。しかし一緒に遊んでいた相手が「そういうもの」だと気付いたら、泣き出しそうだなあと二人が苦笑していると、乱太郎が再び口を開いた。

「小平太や留三郎、文次郎は鈍いから気付いてないみたいだけど、長次なんかは気付いてるみたい。時々、あそこにいるのは誰って私に聞いてくるし、仙蔵も何もないところを目で追ったり…」
「うん、分かった、分かったからその辺で勘弁してくれ」
「え?なになに、怖かった?これからもっと怖い話しようかと思ったのにー。伏木蔵から聞いた本格的なやつ」
「…伏木蔵って、鶴町か?市の病院で内科医やってる」

 乱太郎は伊助の問いに、そうだよー、と答えた。お医者さんだからね、色々知ってるよと続ける乱太郎に、それこそ洒落にならない話が飛び出しそうだと虎若と伊助は顔を引きつらせた。

「あ、そういえば伏木蔵もここいるねって言ってたなあ」
「へえ…」
「私はなんとなく感じるだけだけど、見える人はやっぱり見えるんだねえ。…さくら組のさあ」
「…うちの?」
「兵助くん辺りも見えてそうな気がするんだよね。あの子敏そうだし、霊感ありそう」

 いきなり自分が担当するクラスの子の話を振られた虎若は、伊助と顔を見合わせつつ、いや、あれは違うと思う、と呟いた。

「あれは、どっちかっていうと…電波だろう」


_ _ _ _ _

 保健委員会メンバーはそういうのに敏そうだなあと。はっきり見えてるのは伏木蔵さんくらいかなとも思いますが。すごいスリルーとか言いながら病院で働いている伏木蔵先生です。

 いや、やっぱり自分が働いてるところでこういう話があったら怖いよねっていう話でした。



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