唸るような、あるいは地の底から響くような、そんな音(こえ)、だった_________。



ああ、なんてツいてない日だ。いや、大抵この地へ足を踏み入れればいつものことか。

いやいや、でも何でわかるのか。自分のどこかにGPSでも取り付けられているのだろうか。いやいやいや、それはない。“アレ”はそういったことをするほどの頭はない。

感情的な化物(バケモノ)だ。

うん、しっくりくる言葉だ。破壊神だと神がついてなんか気にくわないから使わないが、“アレ”は化物。人間では無い。人でなし。





彼に対してそんな思考を巡らせながら飛んでくる道路標識をいつもの如く、避ける。









ドゴシャァァアァァァァァアア………ン…









道路のコンクリート破片。周りの人間の叫び声、砂埃、あとは……






カツカツカツカツカツカツカツカツ、









異様に響く革靴が足早にコチラへ向かってくる音。


いつにも増して青筋が浮かび、数メートル先でも静雄の周りがミシミシと、空気が摩擦してるような、そんな感じに見えた。

アレは相当だ。相当ご立腹のようだ。

癇癪もちは困る。ただ顔を見ただけでそんな_________…ああ、




__________________アレか。







何がそこまでいつも以上に腹を立て自分のとこに足を地面に叩きつけながら、歩み寄ってくるのか思い出したらしい。彼は笑った。

そんな笑みに、また、静雄の怒りが沸々と湧いてくる。

この世で最も嫌いな人間、いや、自分が言うのもなんだが、もう人間として認めていない。あの男は悪を身に纏ったような、狡く、利口で人間の面をした悪魔。ピエロでもいい。

黒く、黒く、その黒の中に身を潜め、通りすがる人間の耳元で甘く囁き堕ちる姿を今、目の前でしているニヤついた表情で愉しむのだ。

アイツは人でなしだ。


俺だって関わりたくない。望むことなら、一生。しかしアイツは俺を如何にかして殺しにかかってくる。理由、それなら分かる。ただ単純に俺が嫌ェだから。ただそれだけだ。

ああ、分かるぜ…。だって俺も、大、ッッ嫌ェだからだ!!

アイツがいるとこ、クセェ、クセェクセェ!!どう言ったらいい、なんて言やいい、とにかく、腐ったような、ノミ蟲みてぇな臭いだ!だからよ、殺すしかねーんだ。ホラ、アレだ正当防衛だ。だってそうだろう?向こうだって殺しにきてんだ、ならコッチもマジにならないとなぁ?ああ、ウゼェウゼェウゼェッッ、今日だってアイツのお陰で犯人に仕立てられるしヤクザには追われるし、俺は何にもしちゃいねぇ。なのによォオ''!!

「だから早く殺さねーとな、なぁ!臨也ァ''!」

「なぁんだ、シズちゃん、君のその使っていない脳みそでも誰が犯人かぐらいは推測できたんだ。化物だから頭まで化物だと思ってたんだけどな〜…、いやでも全然無傷じゃん、心底残念だよ」

「こんな回りくどいやり方手前しかいねえだろうがイザヤ君よぉ…でも今回は手こずったぜ」









そう口にしながら静雄は、近くにある、というのか、設置されてあったガードレールを…








_________ベキャリ、








「………嘘でしょ、」









臨也と呼ばれるその男も、流石に車から通行人を守る公共物をまるでダンボールを破る程度の動きでメキメキと剥がしていくものだから、隠しポケットから取り出していたナイフを握りしめる右手が冷や汗で湿った。

静雄の怒りは止まらない。


周りの人間は面白いほど二人の場所から居なくなり、建物の間に流れる風が吹き抜けていくだけだった。







__________________そして、










「今日という今日は許さねぇ、見逃さねぇ、どんな事があっても手前を殺す。殺すしかねー…」

「仕方ないじゃん、俺、シズちゃんのこと死ぬほど、もう心の底から、すっごくすっっっごーーーーく、大嫌いなんだもん」

「ああ、そうか俺もだ。俺も死ぬほどスゲェスゲェスゲェスゲェ大嫌いだからよォ!今!ここで!」

「うわ、ヤバいヤバい」









歪に力任せに剥がされたガードレール、多分、こんな形で使われるなんて思ってもみなかっただろうソレは、静雄によって振り上げられ、グワン、と鈍い音を周囲に震わせながら高く聳え、次の瞬間、













「死ねイザヤァァァァアァアアァァァ」












人間とは思えない。だが、静雄という男がソレを投げた。投げることに慣れているのか、綺麗に、真っ直ぐ、へしゃげたガードレールは臨也に向かって忠順に飛んでいった。

臨也もここで死ぬわけにはいかないので、全神経を集中させ、一般人なら死ぬまでに拝むことは出来ないような方向から見るガードレールを身につけていたパルクールでなんとか回避する。



二人の男の喧嘩、いや、殺し合いにしてはスケールが異常だ。外したことに静雄は舌打ちし、臨也はその悔しい顔をする静雄に気分の良さげな表情を向ける。












「駄目だよシズちゃん、公共のものは私物じゃないんだ。皆んなにとって必要なものなんだよ?それをさぁ、君ってまるでガキ大将だね、いくつになってもそうなのかな?怒りに任せて壊して壊して…ふふ、だから化物なんだよ君は、周りにとって害なんだ」

「ミノ蟲みてーな手前にだけは言われたかないな。人を人とも思ってねぇ害は手前もだろうがよ」

「何言ってるんだい、俺はね、人が好きなんだよ。いつも言ってるじゃん、愛してるって…。でもシズちゃんは化物だから愛せないんだよなぁ、だから死んでほしいの。でも中々しぶとくてしぶとくて、流石、って感じ」

「馬鹿だろ、こんな回りくどいやり方じゃなきゃ死ぬかもしれねーってのに、手前は何がしたいんだ臨也」

「…………別に、暇潰しの一環でもあるし、それに、君の悔しそうな顔をみるのは凄く楽しいからね。あ、でも死んでほしいのが一番の望みだけどさ」

「そうか、そりゃ残念だ。今から死ぬのは手前だからな、あー可哀想可哀想ッ、臨也君は今日ここで死んじまうッッ!!」

「うわ、唐突な再開!?」














走り、投げ捨てたガードレールをまた拾い上げ、今度はソレを持ったまま、静雄は臨也に向かって駆け出した。

いきなりのことに臨也はまたも焦り、向かってくる静雄から逃げるように、走り出す。



歩道橋、欄干からビルの看板へ、そして雑居ビルの屋上、彼等は走る走る、どちらも本気で………………



















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