真っ白な心じゃないけれど




「なまえ帰ろう」

「…ん」

旭はいつからか、部活に行かなくなった。
それからというもの、いつも私といてくれる。
お昼ご飯も、帰る時も、いつも一緒。

「なまえ」

いつも隣で名前を呼んでくれる。


菅原と澤村に少しだけど、旭がこうなってしまった理由は聞いた。
でも私には何も言えなかった。
部活に戻って、とは言えなかった。

帰宅部の私が口を出していい話じゃないと思ったし、


ーーー一旭と一緒にいれる時間が内心とても嬉しかったから。



「あのっ!アサヒさん?いますか!?」

「旭?いるよ。呼ぶ?」

教室のそばでウロウロしている二人組の男の子達と目があったと思ったら声をかけられた。

「はいっ!あの、俺バレー部の日向で…あとこっちは影山です!!」

“バレー部”

ああ、嫌な予感がする。
そう思ってしまった私の心は汚い。
それを隠して、笑顔で旭を呼んだ。


「ちょっと待ってね。旭ー!お客さんだよ」

「え?あれ、また来てくれたの?」

旭は困ったように笑いながら廊下へと出て行った。


それから、旭は部活のことを気にするようになった。
私と一緒にいる時もどこか上の空。

「旭?」

「えっ、ああごめんなまえ。聞いてなかった」

「…旭、部活行かなくていいの?あの男の子達、待ってるんでしょう?」

ついに、旭にそう言ってみた。
旭は少し笑って何も言わなかった。


それから少しして、旭は部活に戻った。
また私といる時間はなくなった。

さみしい。そばにいてほしい。
バレーより…私を見てほしい。

そう思ってる自分が嫌で嫌で仕方なかった。


「なまえ、俺やっぱりバレー、好きだ」

って心から笑ってる旭。
私みたいな彼女、旭に相応しいのかな?
私はこれからもっと辛い思いをする旭を支えてあげられるのかな?


私が決めた答えはこれだった。

「ねぇ、旭…別れよう?」

「…え、なまえ?……なんで?」

「私ね、心が汚いの」

旭に考えてたことを全部言った。
旭の邪魔はしたくなかった。
私のことより、大好きなバレーを頑張ってほしかった。

旭は何も言わずにずっと俯いていた。

「…ごめんね。旭、大好き。もしーーううんなんでもない」


もしーーー。その先の言葉は言えなかった。



旭と別れてから早くも一ヶ月が経った。
旭とは違うクラスだったから、会うこともない。


「みょうじ。旭が最近ずっと調子悪い」

「…私に言われても」

同じクラスの菅原が少し怒ったような表情でそう言ってきた。
もう旭と別れた私にそんなことを言われてもどうしようもない。


「旭にはみょうじが必要なんだよ」

「私は旭の邪魔にしかなってないよ」

「違うよ。旭にとってバレーとみょうじは同じくらい大切で、どっちかがなくなったらうまくいかない」

そんなこと言わないで。
私が何を考えていたか知ってる?


「……旭言ってたよ」

「え…?」



『そんな悩むくらいならなんで別れたんだよ』

部活の休憩中。
大地がそう、旭に聞いた。

『なまえさ、俺にそばにいてほしいって。ずっとバレーより自分を見てほしかった、バレーから離れてた時そばにいれて嬉しかったって。それ聞いた時さ、俺嬉しかったんだ。そこまで俺なんかのこと好きでいてくれてさ…』

『…じゃあなんで』

『でもさ、俺はバレー部に戻ることに決めた。これからみょうじのそばにはいることはできなくて、寂しい思いするくらいなら他にそばにいてくれる人と付き合ってほしいから』

『はぁ……みょうじも旭もお互いのこと好きすぎるんだよ』



私は涙が止まらなかった。
旭、私に幻滅したんじゃなかったの?
私なんかとは付き合えないって思って別れを承諾したんじゃなかったの?

「旭さ、そんなかっこいいこと言ってたくせにめっちゃ調子悪いよ、最近。ずっと誰かさんのことばっかり考えてる」

菅原は、「で、西谷にいっつも怒られてる」と笑って付け加えた。

私も菅原の笑顔につられて思わず笑った。


「私、旭のところに行ってくるね。…あのへなちょこをそばで支えてあげなきゃ」

菅原にお礼を言って私は教室を飛び出した。



旭、私これからもそばにいたい。
バレーを頑張る旭を支えるよ。
辛い時、そばにいてあげるから。
たまには寂しいって文句言っちゃうかもしれないけれど、


その時は力強く抱きしめてね?





『…ごめんね。旭、大好き。もしーーー


引退した時、旭に彼女がいなかったら、もう一度……告白してもいいですか?』


真っ白な心じゃないけれど
(これからも貴方を支えます。)





あとがき

今もなまえちゃんはずっと旭さんの隣で笑っています。



prev next
back