愛する君の薬指
烏野高校バレー部は活動が終わったようで、みんな制服に着替え続々と部室から出てきている。
「ん!?日向!なんか校門のとこに女の人いね?」
「え!!?あ!ホントだ!!います!!制服じゃない!」
目ざとい田中は校門のところに立っている女性に気付いたようで、隣にいた日向の肩をバンバンバンバン叩く。
「うおっ!めっちゃ美人じゃね!?」
「そーっと見てみようぜ!」
西谷も後ろから猛ダッシュで田中と日向の間に入っていた。
三人で平然を装い女性に近づけば、それに気付いた女性は嬉しそうに笑った。
もちろん驚き硬直してしまった三人。
「あ、あの、バレー部の方ですよね?」
「ははははいっっいいえっ!はい!」
ものすごく慌てる日向と硬直したまま口をパクパクさせる田中、西谷に女性は「えっえっ」とおどおど。
見かねた澤村と菅原が駆け寄ってきて、「うちの部員がすみません。どうかしましたか?」と声をかければ、女性はホッとしたように胸を撫で下ろした。
「あの、バレー部の方ですよね?」
「あ、はい!そうです」
「えっと、烏養繋心という人いませんか?」
「コーチですか?いますが今ちょっと顧問と話をしていまして…あ、来ました!」
澤村は声が聞こえた方へと指を指す。
途端に女性はニコニコとしだし、烏養の方に向かって手を小さく振った。
それに気付いた烏養は持っていたものを全て落とし、それを気にすることもなく女性へ駆け寄る。
「お、まえ!なにしてんだよ!!」
「繋心に一刻も早く会いたくて迎えに来ちゃった」
部員達は一斉に二人の周りへと集まり、誰だ誰だと騒ぎ出す。
「お前ら騒ぐんじゃねーよ!……あー…こいつはみょうじなまえ。俺が現役だった時のマネージャー」
「こんばんは。なまえです」
「こ、こんな美人なマネージャーがいたんすか!?」
「……まぁこいつは昔から人気だったよ」
「繋心ってば嘘ばっかり。いっつも私のことなんて興味なさそうだったのに」
なまえが意地悪に笑えば、烏養は困ったように頭を掻いた。
「そ、れはだなぁ、まぁあれだよ。俺も若かったからだな」
「ふーん…じゃあ今はちゃんと愛の言葉を言ってくれるんでしょうね?」
「うっせーよ」
「あっ、いっつもそうやって髪くしゃくしゃにするんだから」
二人の世界に入ってしまった烏養となまえをぼーっと見つめる部員達。
「お、お前らさっさと帰れ!!!」
しっしっと言いながら、手を振れば、部員達はニヤニヤしながら帰っていった。
「お前なぁ…」
「ごめんって」
「家で待ってろよ」
手を繋心の目の前に出せば、怒ったような困ったような顔をしながら、乱暴に繋いでくれた。
「だってやっと繋心が心を決めてくれたんですもの」
高校時代からずーっと繋心が好きで、
でも繋心は私に興味なんてなくて、
でも一生懸命アピールして、
やっと付き合うことができて、
やっとーーーー
「繋心と夫婦になれるなんて嬉しいわ」
「お前のアピールに根負けだよ」
「そんなこと言って。本当は?」
ニヤニヤしてたら頭を軽く叩かれた。
「ぼーりょくはんたーい」
「うるせっ」
隣になまえがいる。
これほど幸せなことはない。
俺がお前に興味がなかったって?
ありえねーよ。
ずっとマドンナのお前に憧れてた。
俺を好きになってくれたなんて信じられなくて、ずっと誤魔化してきたけど、なまえからの“好き”という言葉ほど心地いいものはなかったよ。
「なによ嬉しそうに笑っちゃって」
「なまえ」
「ん?」
「…好きだよ」
「…っ!」
これからもこの微笑みを隣で独り占めできるなんて、
これほど幸せなことはねーな。
愛する君の薬指
(もらいますね。)
あとがき
烏養さんとなまえさん、お幸せに。
なまえさんはたまに部活に顔を出して差し入れをしているみたいです。
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