可愛くなりたい乙女心




「菅原さぁーん」

少し高めの可愛い声。
そしてそれに見合う可愛い容姿。


「また見に来ちゃいました」


最近うちでの練習試合が多いため、応援に駆けつける生徒が多い。
月島、影山、大地さんなどはファンが多く、黄色い声援が飛び交っている。
もちろん、孝支にもファンは多かった。

優しい王子様フェイス、優しい性格、とくるものだから、特に後輩の女の子からの人気が凄まじい。

「これ、良かったら皆さんで」

最近、孝支に猛アタックしている女の子。
手料理まで持ってきたか…。

誰にも気付かれないように溜め息を一つ。

「おー!マジ!?ありがとう」

「あのっ、いいこいいこしてください!」

面倒見がいい孝支は少し苦笑いしながらも、女の子の頭まで撫でちゃって。

あーだめだ。イライラしてきた。
でも孝支の彼女として余裕を持たなきゃ…と自分に言い聞かせる。

「なまえ、これこの子から」

と近くにいた私に女の子がくれたお菓子を渡してきた。
なんなの?孝支鈍感なの?殴るよ?

……なんて言えるわけもなく、

「すごい!ありがとうね」

と微笑んでそれをもらうしかなかった。

この子は私と孝支が付き合ってること知らないのかな。
まぁ、あんまり口外してないからなぁ。


そこで集合の笛が鳴り響く。

「孝支」

「ん。あ、じゃあ、お菓子ありがとう」

はい、でました。王子様スマイル。


後輩の女の子は嬉しそうに笑う。
…可愛いなぁ。私も少しは女の子らしく可愛く可愛いしたい。


「どうした?元気ないべ?」

孝支は私の頭を撫でてくれる。
いつもはとても嬉しいけど、

「っやめて!」

あの女の子を撫でた手で触ってほしくなかった。

「…ごめん。試合、はじまるよ」





練習試合が終わって部員達は反省会をしていた。
私達マネージャーは片付け。

19時を回ったとき、片付けが終わり、反省会も終わったようで、最後の挨拶をして解散した。
着替えも終わり、帰ろうとしたときーー


「菅原さん!」

「あれ、お菓子をくれた…」

「そうです!あの…一緒に帰りませんか?」

寒かっただろうに、体育館の外でずっと待ってたのかな。
鼻やほっぺが真っ赤になっていた。

「寒そう。はい、これ」

私は持っていたカイロを手渡す。
こんなに必死に待っていたこの子に嫉妬なんて出来るはずがなかった。

「えっ、あ、ありがとうございます」

微笑む彼女はとても可愛かった。

「こ……すが、送ってあげたら?」

私なんかより、こんな風に可愛い女の子が孝支には似合うよ。
私が名字で呼んだことに顔をしかめた孝支だったが、

「うん、帰ろうか」

と女の子と一緒に体育館を後にした。


私もあんな風に可愛くできたら。
可愛くヤキモチやけたらーー……。



「あれ?なまえ?」

「大地、旭」

「今日はスガと帰んないの?」

「ん…ちょっと」

何かを察したのか、大地と旭は私を挟んで歩き始める。

「帰ろうか」

「帰ろう帰ろう」

「…ありがと」


校門を出たとき、そこには見慣れた姿が私を待っていた。

「孝支…」

「俺はなまえと帰りたいんだけど?」

少し怒った顔。

「さーて、スガに怒られる前に退散しますか」

大地は私の頭をぽん、と叩いて、旭は手を振って去っていった。


「大地には頭撫でられるんだ」

「えっ、ちが」

そんなわけないじゃん。
孝支の細くて綺麗で大きな手。私に触れる手、大好きだよ。


「なまえは俺と別れたいの?」

「っ、なわけないじゃん…」

「じゃあなんであの子と帰らせようとしたの?」

それは…、と言葉が詰まる。

「俺はなまえだけが好きだよ。なまえの全てが好き。いつも俺を支えてくれるなまえが好き。なまえは違うの?」

「私も、孝支が大好き、だよ。…や、ヤキモチやいてたの……」

すると孝支は、少し驚いた後、ククク、と堪えきれてない笑いを零した。


「なまえがヤキモチやいてくれたなんて、にやけちゃうべ」

「…馬鹿」

孝支は、スルリと私の指に自分の指を絡めてきた。

「これからもヤキモチ、やいていいべ?」

「孝支は女の子みんなに優しすぎるの!」

「俺はなまえだけを見てるよ」

「私だって!」


なにこのバカップルみたいな会話…。
恥ずかしい……。



「なまえ、可愛い」

孝支に可愛いって言われたら、

私は可愛くなれる気がした。



可愛くなりたい乙女心
(「私、もっと素直になるね」)





あとがき

とっても可愛いなまえちゃんでした。




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