幸せの宅急便




「影山ー!帰ろ!」

「はっ!わかっ!」

「…はい、わかりました、で合ってる?」

影山はコクコクと首を縦に振った。

影山と付き合い始めて早2ヶ月。
影山はまだ緊張しているのか、たまにこんな感じで、テンパる。
でもそんなとこも、馬鹿で可愛いなぁ…と思っちゃうのです。


影山の自転車の後ろに乗って、腰に腕を回せば、ガクンと揺れる自転車。

「ちょ、ちゃんと前見て!」

「だっ、なまえさんがいきなり抱き着くからっ!」

「自転車の後ろに乗るんだから当たり前でしょ!!!」


影山はいつも私の家の前まで送ってくれる。
通り道なんかじゃないから、「送ってくれなくていいよ」って何度言っても、

「筋トレ代わりっすから」

と譲ってはくれない。


「送ってくれてありがとう」

「……」

「どうかした?」

いつもならすぐに帰るのに、自転車を持ったまま動こうとしない。

「あっ、の!」

続いた言葉に、私はびっくりしたと同時に、トキメイた。


「キス……してもいいっすか」



え。
私は状況が把握出来なくて一瞬固まってしまう。

「っ、やっぱいいっす!!!!すいません!!」

それを否定ととった早とちりな影山は、自転車に乗ってさっさと漕ぎ出しそうになるものだから、ジャージを引っ張って連れ戻す。

そしてそのまま自分の唇を影山のそれに当てれば、今度は影山が固まってしまった。

「聞かなくていいから!…その、好きな時にしてよ」

すると今度は顔を赤くして、自分の腕で隠す。
その姿が面白くて思わず笑ってしまう。
すると恥ずかしそうに睨まれた。

そして私の頭を掴んでもう一度キスしたあと、

「したかったからしました!」

そう言って、帰って行ってしまった。
そのまましばらくその場から動けなかったのは、今でも内緒の話だ。






「…なまえ、そん時の話すんのやめろよ」

隣で影山は、不機嫌そうな表情を浮かべる。

「あーあ、あの頃は純粋無垢な影山だったのに、今では私のこと襲っちゃうんだもんなー」


お互い、裸で、ベッド、となればやったことは誰にでも予想できるだろう。
もう何度目か分からない。
でもいつも幸せな気持ちになれるのは、あの頃から変わってない。

「…うるせー」

「でも今でも幸せだけどねー」

いきなり、組み敷かれてとても嫌な予感がする。

「え、ちょ、影山?」

「なまえが悪い」



ねぇ、影山。
これからも私に幸せを届けてね。






幸せの宅急便
(愛してる)





あとがき

思い出話をしているお二人のお話でした。




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