愛すべき、馬鹿




私の最近の不満。それは……

「潔子さぁぁああん!貴女の田中です!俺です!!本日もお美しいですーーー!!」


彼氏のこの、堂々とした浮気。
いや、向こうは浮気だとこれっぽっちも思ってないと思う。

でも彼女の私にとっては、完全に浮気。

彼氏が、ー例え恋心はないとしてもー他の女の人の名前を日々連呼するのを見て、気分が良くなる彼女はいないから!


なのに龍は毎日毎日、部活の時間ごとに、のやと二人で潔子さん潔子さん言っている。

そうすれば、もちろん私のストレスは溜まっていくわけで。


「私、龍のこと嫌い」


一緒にいるときに、そう思わずポツリと言ってしまったのだ。

「は?え?まっ…え?」

龍はもちろん戸惑って、しかも読んでいた雑誌を落とした。

「なんで!?なまえ、俺なんかした!!?」

「…自分で考えて」

これくらいいい気味だ。
「愛してる」って言って、バラの花束をくれるくらいしてくれないと私の怒りはおさまらない。
…しかも潔子、美人だから自信だってなくなっていくんだからね。

「おい、待って、ちょっと、え、俺、なにした?何かしましたか!?」

「私が嫌がること毎日してるでしょ」

龍は、顔をしかめて悩んだ後、頭を下げた。

「ごめんなさい!分からないので教えてください!嫌いにならないでください!!なまえ様!!!!」

ハァ…ほんと、馬鹿。
でもこの馬鹿が好きなんだから仕方ない。



「龍が、潔子さん潔子さんって言ってるのがやだ」

龍は、口をぽかんと開けて、驚いた表情。

「……私が彼女じゃん」

そして、その表情はニヤリとした顔へと変わる。

「お前ほんとに可愛いな!」

「……うるさい」

「すまん!」

龍は、深く頭を下げて謝った後、「でも」と続けた。

「なまえ以上に可愛くて、いい女はいねーよ!!!!潔子さんは、んー、なんというか女神だ。でもお前は俺の彼女だ!」

そんなわけが分からないことを言って、私をぎゅーって抱きしめてきた。



ほんと馬鹿。

でも、大好きよ。




愛すべき、馬鹿
(「…もう離れてよ」「もうちょい!な!」)





あとがき

田中は、サラッと「好きだ」とか言ってくれるか、もしくは、ものすごく恥ずかしがって言ってくれないかの二択の気がします。




prev next
back