少し不器用な君と
なんでそんなことしたの…?
私のこと嫌いになったの…?
ーーー……どうして私と一緒に行ってくれなかったの?
私の友達が教えてくれた。
国見ちゃんがクラスの女の子達とケーキを食べに行ったって。
『国見と女の子がケーキ食べに行くことなまえよく許したねぇ』
『…え?』
耳を疑った。
国見ちゃんが…?
『え、まさか知らないの!?』
『うん、知らない…』
友達は「ごめん」と謝ってくれたけど、何も悪くないよ、と笑う。
すると友達は申し訳なさそうにしながらも、写真を見せてくれた。
『私の友達が国見とかとケーキバイキング行ったんだーって、写メ見せてくれてさ』
携帯を借りて、写真を見た瞬間。
今までドキドキと聞こえるくらい動いていたことが嘘のように、私の心臓は一瞬動きを止めた気がした。
『国見ちゃん…』
考えるより先に身体が動いていて、私の身体は国見ちゃんのクラスに向かっていた。
友達と話す国見ちゃんに声をかければ、驚いた顔をされた。
そりゃそうだよね。一度も来たことなかったもの。
クラスに彼女がくるなんて嫌かなって思って遠慮してた。
でも、今そんなことを考える余裕は私にはなくて、国見ちゃんの友達に謝って、本人の腕を掴んで教室から連れ出した。
「ちょ、なまえ?なにしてんの?」
そんな言葉も私は無視して、歩き続け、人気の少ない所で止まって腕を離した。
「なんだよいきなり…」
「……ねぇ、私のこと嫌いになった?」
「は?何言ってんの?」
国見ちゃんは呆れたように笑う。
「…なんで私と一緒に行ってくれなかったの?」
ダメだ。頭が整理できてない。
ちゃんと話もできてないし、涙だって溢れてくる。
「ねぇなまえ…なんの話してるの?」
「国見ちゃん、ケーキ食べに行ったんだよね?クラスの女の子たちと…」
すると国見ちゃんの表情がスッて変わって、ああ、やっぱりそうなんだって現実を突きつけられた。
「ただケーキ食べただけだよ。他に男もいたし」
その“遊ぶ”ってことを私がどれだけしたかったか知ってる?
私ね、部活を一生懸命頑張ってる国見ちゃんの邪魔しちゃいけないってたくさん我慢してたんだよ?
もう私は国見ちゃんと話す気にはなれなくて、黙ってその場を後にしようとした。
けれど、国見ちゃんは私の腕を掴んで、自分の方へと向かせる。
「まってなまえ」
「っ触らないで…!」
思いっきり腕を振って、国見ちゃんと距離をとった。
国見ちゃんはイライラしてると思う。そういう顔だもん。
でも、それでも私は止めることができなかった。
「ごめんなさい…もう、国見ちゃんの彼女は私だって思えない……付き合ってるって思えないよ」
それだけ言って私は自分のクラスへと走って戻った。
涙を拭いて教室へと入れば、授業はもう始まっていて、先生に謝ってから席へとついた。
それから必死に国見ちゃんを避けた。
廊下ですれ違っても無視して、休み時間はなるべく教室から離れた。
そのおかげで、私と国見ちゃんはもう一ヶ月近く話していない。
自然消滅してもいい、そんな風に考えてた。
放課後。
友達と中庭で話をしていたら、何故か、あのとても人気がある三年生の及川さんが私の隣へとくると、ニコッと笑った。
及川さんとは話したことはある。
国見ちゃんの部活の先輩だから。
「なまえちゃん?だよね」
「えっ、はい…なまえです」
「ちょっと相談があるんだけど、いい?」
「…あっ、はい」
ジャージ姿の及川さんに、よくわからないまま体育館へと連れてこられた。
中からはボールが落ちる音がする。
「今バレー部が練習してる」
ってことは国見ちゃんもいるんだな…。
「見てみる?」
「えっ、いいです…」
国見ちゃんに会いたくない。
「こっそりだから、ね?」
及川さんに無理矢理引っ張られ、中からはあまり見えない窓から中を見ればバレー部が大勢。
でも、すぐに国見ちゃんを見つけてしまう自分に思わず笑ってしまった。
「国見ちゃん…なんか変」
と、自然と呟く。
国見ちゃんを目で追えば、なんだか様子がおかしい。
うまく言えないけれど、いつもの国見ちゃんじゃない。
「やっぱりなまえちゃん、国見ちゃんのことよく分かってるねー」
「えっ…」
「国見ちゃん、変だよ。前と違う。なんかイライラしてるっていうか、余裕がない」
うん…及川さんの言う通りだと思う。
「さて、ここで問題です。いつも国見ちゃんが部活中によくやることはなんでしょーかっ?」
いきなりハイテンションでそう言われて、思わず身体がビクつく。
問題、ってなに?
「考えて考えて」
及川さんは腕をプラプラとさせながら、私の答えを待っているようだった。
けれど国見ちゃんの部活やってるところなんて初めて見たし、何もわからない。
すると及川さんは楽しそうに笑って答えを言った。というより叫んだ。
「正解は!!!なまえちゃんの写真を見ることと!!!!なまえちゃんがあげたリストバンドを!!!眺めること!!!でーーーっす!!!!!!」
楽しそうに叫ぶ及川さんに、なんかもうどうすればいいか分からない私はその場に硬直。しかも言っていることもよくわからない。
「国見ちゃんね、なまえちゃんのこと大好きだと思うよ?最近二人会ってないよね?でも国見ちゃんはリストバンド大切そうに毎日つけてるよ」
リストバンド…それは付き合い始めてすぐ、国見ちゃんにあげたものだった。
部活中もつけれるように、って。
「ここからは推測だけどさ、国見ちゃん多分なまえちゃんとのデートの下見に行ったんじゃないかなー?」
それはきっとケーキを食べに行ったことを言っているのだろう。
「まぁただ単にケーキ食べたかったってだけかもしれないけど。国見ちゃんああ見えておバカだし」
「国見はおめーに言われて心外だろうな」
体育館から出てきたのは、たしか副主将の岩泉さん。
「ゲッ!岩ちゃん!」
ズカズカとこちらへ歩いてくると、私に「クソ川が迷惑かけて悪かったな」と頭を下げて、ズルズルと及川さんを引きずって体育館へと連行していく。
及川さんは楽しそうに私に手を振って、岩泉さんに殴られて、涙目になっていた。
「なまえ…」
体育館から顔を覗かせたのは国見ちゃん。
「及川さん余計なこと言って…」
と呟き、私から目線を外すと頭をかきながらこちらへとゆっくり歩いてきた。
「でも…及川さんの言葉に嘘はないよ」
そして「ケーキは食べたかっただけ。ごめん…」と付け足した。
うん、私も国見ちゃんが下見なんてするとは思えなかったよ。
きっと当日になって「どこいく?」なんて聞いてきて、結局ダラダラになるデートだろうなって思ってた。
でもそんなデートを待ち望んでたの。
「ねぇ、国見ちゃん。
私と、デートしてください」
国見ちゃんは優しく笑って頷くと、私を抱きしめてくれました。
少し不器用な君と
(これからも一緒にいたいです。)
あとがき
仲直りしてよかったです。
ちなみに国見ちゃんは男友達に誘われて、放課後にケーキを食べに行ったらしいのですが、ろくに喋りもせずにケーキだけ食べて帰ってきたそうです。
なまえちゃん以外とは特に話す気もないようですね。
prev next