私の想いに気付けバカ




どんなに仲が良くても、そばにいることはできても、

敵わない相手がいる。



「なまえ」

「大地どったのー」

お昼休み。友達とご飯を食べ終わって話していた時、申し訳なさそうに後ろからツンツン、と背中を突かれる。

「今日の練習メニュー悩んでるんだけどさ、見てくれないか?」

「いいよ!その代わりジュースね?」

「なまえはちゃっかりしてんなぁ」

私がにかっと笑えば、大地は私の髪をいつものようにくしゃくしゃと撫でた。

友達に謝り、後ろを向いて大地と向き合って、大地が書いた練習メニューとにらめっこ。


「んー、田中と旭、最近練習したいことあるみたいだから別でもいいかもねぇ…」

「やっぱりそうだよなぁ。でも場所がなぁ…」

「武ちゃんにどっか空いてないか聞いとくよ」

「まじ?さすがなまえだな。助かるわ」


ーーーーだって大地のそばにいるには、大地を一番分かってあげられて、助ける存在じゃないといけないから。
それ以外に私に勝ち目があるところなんてないから……。


「なまえ?どうかしたか?」

「っ、なんでもないよ」

いつも通り笑って見せれば、大地はホッとしたように笑った。
うん、大地は笑顔でいて。それだけで私、嬉しいよ。



「澤村ー!なんか呼ばれてっぞー」

クラスメートの男子が廊下から叫ぶ。
私もそちらへと目線を向ければ、私も知る女の子だった。

「あっ、ちょ、悪い。なまえちょっと待ってて」

「ううん、ゆっくりでいいよ?」

最近、大地といい感じの女の子。
三年になって同じクラスになったらしい。
大地も、女の子も、お互いに惹かれあっているのは一目瞭然だった。

私とは違う女の子らしい顔に、茶色で綺麗な巻き髪、可愛い声、スタイルのいい身体……。

ただの黒髪セミロング、顔も平凡、普通の声、少し焼けた肌……なにも勝ち目はない。


私には、一年の時から一緒にやってきた部活だけが大地との唯一の接点。
それを無くしたら何も残らない。

「なまえ」

「孝支」

「そんな顔するくらいなら大地奪っちゃえばいいのに」

…孝支にはなんでもお見通しかぁ。

「いいの。大地だって可愛い女の子と付き合った方がいいと思う」

「なまえだって可愛いけどなぁ」

「孝支は優しいんだから」

「ホントに思うべ?とにかく、元気だせよな」

孝支は食べていたお菓子を私の口元へと持ってきた。食べていいの?と目で確認すればにっこりと頷いた。

「ん、美味しい」

「好きなだけ食べていいべ」

もう一度口に運んでくれて、それを食べようとした瞬間、私の目の前から消えるお菓子。

顔を上げれば、お菓子を掴んで、いつもより少し怒ったような表情を浮かべる大地。

「どうかした?」

「えっ…あ、いや。なんでもない」

と歯切れの悪い大地に、孝支は何故かニヤリと笑ってもう一度私の口元へとお菓子を持ってきてくれた。

「はい、なまえあーん?」

「?あーん」

なんだろ。とりあえず、あーんすればいいの?

素直に従ったら、大地は私の口を自分の掌で隠してしまう。

「大地どうしたの?」

「…なんでもない。スガ、俺にもお菓子くれ」

「はいよ」

孝支は何が可笑しいのか、クスクスと小さく笑いながら大地へとお菓子を手渡した。

そして、私に耳打ちしてきた。



「なまえが思ってるような展開には、ならないかもしれないべ?」



私がこの意味を分かるのは、数週間後。





私の想いに気付けバカ
(想いに大地は気付いたみたいだべ?)





あとがき

なんでもお見通しのスガさんでした。
大地さんは近すぎてなまえちゃんへの想いに気付いていなかったようですが、スガさんといえど他の男とイチャイチャするのは嫌だと思ったようで、そこから何かが変わっていったようです。




prev next
back