私が大好きな猫さん
ねぇ、研磨って私のこと好き?
その言葉を聞いたら、全てが壊れてしまう気がして聞けなかった。
「研磨、一緒に帰ろ?」
「え、…今日、本屋寄る、から」
「…そっか」
いつもなら、仕方ない、って自分を無理矢理納得させれた。
でも今日はなんだか朝からモヤモヤしてて、つい言っちゃったの。
ずっと言えなかった言葉。
「ねぇ、研磨」
「ん、なに?」
「……私のこと、好き?」
「え…なまえどうしたの」
驚く研磨の声で我に返った。
そして言った言葉をすぐに後悔した。
「っ…なんでもない!また明日ね」
そう言って私は全速力で走って、その場から離れた。
すると、無意識に涙が出てきてしまって、拭っても拭っても拭いきれない。
付き合ってから、手を繋いだこともない、もちろんキスしたことだってない、むしろ前より私に話しかけてくれなくなった。
ねぇ、本当に私のこと好きなの?
私だって不安になるんだよ?
「なまえ?」
「クロ…」
私は思ったより速く走っていたみたいで、気をきかせて先に帰ってくれたクロに追いついてしまった。
近くの公園のブランコに座って、私が思ってることを全部話した。
研磨と幼馴染みのクロなら、なにか分かるかもしれない、そんな期待を込めて。
子供たちが帰って静かになった公園に私達の声だけが響く。
「とりあえず携帯貸せ」
「携帯?」
「そ、携帯。それで多分全部解決する」
私は素直に自分の携帯をクロへと渡す。
するとクロは何かを操作して、携帯を耳へと当てる。…誰に電話してるの?
「あ、もしもし?研磨?俺。なまえの泣き顔って可愛いよな。俺がもらってもいい?は?今?公園だけど?」
「へ!?」
話の内容に驚いて携帯へと手を伸ばせば、クロは電話を切ってから私へと手渡した。
「は、え?クロなにしてんの!?」
「まーまー俺に任せなさいって」
嘘くさい笑顔で私の肩を掴むと、もう一度ブランコへと座らされた。
しばらくして、クロは楽しそうに笑いながら指をさした。
その指が向いている方向を見れば、
「研磨…」
「ハァハァ…なまえ…」
珍しく息を切らして、汗だくで、髪が乱れた研磨の姿があった。
「な?俺の冗談で血相変えて走ってくるくらいなんだから、好きなんじゃねーの?ってぇよ!冗談だろ」
クロは研磨に殴られた横腹を押さえながら、手を振って去っていった。
「…クロになにかされた?」
「…なんもされてないよ」
「……良かった」
私は研磨に近寄って、乱れた髪を手櫛で整える。
研磨は俯いて、私の顔を見ない。
「ねぇ、私は研磨のこと大好きだよ。だからね、もっとベタベタしたい」
そう言えば、研磨は少し身体をびくつかせた。
「……俺も」
でも、小さな、本当に小さな声でそう言ってくれた。
それから、
「なまえのこと、好き、だから。ちょっと、恥ずかしくて。でも…好き」
そう言ってぎこちなく抱きしめてくれた。
この照れ屋な猫さんと、これからは、もっとーーー。
私が大好きな猫さん
(クロなんかの前で泣かないでよね…)
あとがき
なまえちゃんはこれから積極的にグイグイいって、研磨を困らせると思います。
でも研磨もまんざらでもない様子…。
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