やっぱり君はずるい人
「こ、ここここ、」
「みょうじ、それ鶏の鳴き声?」
「ちがう!」
ああ、だめだ。やっぱり恥ずかしい。
私は彼氏であるスガを名前で呼びたくて、呼びたくて、でも死ぬほど恥ずかしくて、毎日鶏の鳴き声を言っております。
もう付き合って一年。そろそろ名前で呼びたいのに、苗字呼びがくせになってて…。
「潔子!笑わないで!」
休憩中は潔子と仕事をしながら、恋愛相談。
「ごめん。でもとても面白くて」
「ねぇ、どうやったら自然に名前で呼べるの?」
「さぁ?思いっきり叫んでみたらどうかしら?」
「……無理」
やっぱり練習するしかないのかな。
「潔子をスガだと思うね」
「え、なによそれ」
「いいから!!!」
目を瞑って、ふぅ…と息を吐く。
目を瞑ったまま、
「こ、孝支…」
と、呟く。うん、いけそう!
と思って目を開けたら、
「ん?なに?」
私の目の前にしゃがみ込んで、とても楽しそうに笑うスガがいた。
「え、あ、え、な、え?」
「ハハ、みょうじ動揺しすぎ」
「な、んで!?は、恥ずかしいんだけど!!」
潔子は遠くから、クスクスと可笑しそうに笑ってた。
あいつ…!!!
「みょうじが最近鶏みたいな鳴き声してたのは、俺の名前だったのかぁ」
「ちがっ…わないけど…」
「もっかい呼んで、名前」
スガはたまに見せる意地悪な笑みでこちらの顔を覗き込んできて、私は仕方なく顔が火照ったままぽそりと小さな声で呼ぶ。
「…孝支」
「ん、よく出来ました。なまえ」
だめだ。もう恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて顔があげれない。
しかもスガ、さらっと私の名前呼んだし…。
「孝支ばっかりずるい!」
「えーなにがだべー」
ニコニコと無害なふりして、楽しそうに笑う孝支には、一生勝てない気がした。
やっぱり君はずるい人
(「スガ!」「あれー?名前でな?」)
あとがき
しばらくなまえちゃんは、これをネタにいじられたそうです。
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