「出来ること」


「おかえりなさい、先生。…ソヨカゼは何故泣いているんだ?」

帰宅すると、待っていたかのようにジェノスさんにお出迎えされた。

「なんか泣いてたんだよ。理由聞いても教えてくんねーし。」
「だからなんでもないんです!」

わたしは鼻声でそう言った。これ以上迷惑はかけたくない。
泣きたいのはわたしよりサイタマさんかもしれないのに。

「それより先生、ご無事でなによりです。」
「ん?おお、なんだジェノス、俺のこと心配してたのか?」
「え?…ええ、まぁ。師匠ですから。」

サイタマさんはそーかそーかと適当に相槌を打っていた。
もしかしてジェノスさん、サイタマさんが外に出たらああなることを予測していたのかな…?




『…Z市には多くのヒーローやボランティア団体が復興作業を続けています。…』

夕飯を終え、サイタマさんがお風呂に入っている間。
テレビからは地元のニュースが流れていた。

『しかし今回のZ市半壊には多くの疑問の声が上がっています。というのも…』


「ジェノスさん。」

わたしは思い切って今日のことを話した。

サイタマさんが、タンクトップブラザーズによって市民から罵声を浴びせられたこと。
そしてそんな市民にサイタマさんがかけた言葉。


「…そんなことがあったのか。…先生…そんな素振り微塵も…。」
「サイタマさんの本当の強さは、救われた人や戦った人にしか分からないんでしょうね…。」

わたしは膝の上で拳を作った。
やるせなかった。


「…ジェノスさん。わたしたちに出来ることはあるんでしょうか。」

わたしは目の前のサイボーグにそんなことを投げかけた。

ジェノスさんは真剣な顔でわたしを見つめた。


「俺達に出来ることは、…どんな時でもサイタマ先生の味方でいることだ。」

「どんな時でも…。」

「ああ。…たとえ世界が敵になってもだ。」


世界が、サイタマさんの敵に?


「あれほどお強い先生に着いていくとは、そういうことだと俺は思う。強さとは、必ずしも他から認められるものではない。そして先生は他人からの評価ではなく、ただ純粋に強さを求めていらっしゃる。」


そうか。だから、足掻こうとしないんだ。
誰に何と言われようと、誤解を招いても、無理にそれを撤回させようとしないんだ。

サイタマさんが強さを求めるにあたって、さほど問題じゃないから。


「ソヨカゼ。…もう泣き止め。」

ジェノスさんはわたしの肩をぽんと叩いた。
いつの間にかまた涙が流れていた。

ジェノスさんの手は機械なのに、無機質なはずなのに、なぜか暖かかった。
これも博士さんがジェノスさんに搭載した機能なのだろうか。

「先生の強さは本物だ。」
「はい。そうですよね。」


わたしは潤む目のまま笑って見せた。


「…ソヨカゼ、」

「お〜う出たぞ〜い。っしゃ飲むぞ〜。」
「あ、サイタマさん!」
「なんだよソヨカゼ、ジェノスに泣かされたのか?」
「え?いや、これは違います…!えーと…ゴミに目が入って…!」
「いや逆だろ。」


「…。」



続く


公開:2017/02/24/金


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