「筍を持ったヒーロー」
「おい、あんた!」
隕石の欠片が足元でパキリと音を立てた。
それとほぼ同時に肩を叩かれ振り返る。
「やっぱり!どっかで見たことあったと思ったら、あの時の…えーと、ソヨカゼちゃん?」
「?どうして名前…あ、あなたは…スティンガーさん!」
「いかにも!俺はA級11位のスティンガーだぜ!」
彼とは面識がある。
以前怪人に襲われてる際に、何度か助けに来てくれたのだ。
サイタマさんには劣るが、彼もかなりの頻度でわたしの巻き込まれ現場に来てくれている。
呑気にも握手を求めてきたヒーローには、久しく見ていなかった陽気さがあった。
もしわたしが全てを失った状態だったら、不謹慎だと怒っていただろう。
それでも、今この町には、大丈夫だと笑って言ってくれる、そんなヒーローのような存在が必要なのかもしれない。
わたしはスティンガーさんと握手をした。
「あんた、ほんとよく被害に遭うんだなぁ。ソヨカゼちゃん、結構有名だぜ。」
「有名?わたしが?」
「そうそう。知る人ぞ知る巻き込まれ少女!なんてな。助けに行く先々で見かける女の子がいるって、ヒーロー達がみんなそう言うぜ。」
なんかわたしの知らない所で有名人になっていた…。
これって喜ぶべき?悲しむべき?…後者だろうな。
「てかよ、1人でどうしたんだ?家は?家族は無事か?」
「あ…はい。家も家族も無事です。」
家といっても居候先で、家族といっても家主ともう一人の居候のことだが。
「ただ、通学先の学校の被害が酷かったんですけどね。」
「そうか。じゃあソヨカゼちゃんは最小限の被害で済んだわけか。運がいいな!」
スティンガーさんは歯を見せて笑った。
運がいい?
わたしは慣れない言葉に違和感を覚えた。
わたしはかなりの巻き込まれ体質で、今回の隕石だって、もしかしたら本当にわたしが引き寄せたのかもしれないというのに。
「あ、そうだ。家を無くした人にうちの実家で採れた新鮮なタケノコを配ってんだ。よかったらソヨカゼちゃんも持ってってくれよ。」
「いいんですか…!?ありがとうございます、いただきます!」
スティンガーさんは、何個か積んであったダンボールからタケノコを一つ取り出し、手渡してくれた。
「俺の武器にもなってるブランド品だぜ!?」
「ふふ、じゃあ怪人が来たらこれで突けばいいんですね!」
「あ、や、それより美味いから食ってくれよ!」
わたしたちは2人して笑い合った。
「じゃ、俺はこれから瓦礫の撤去作業に行くから。ソヨカゼちゃん、気をつけて帰れよ!」
「あ、はい!お気を付けて…!」
スティンガーさんは絶えず明るい表情だった。
スティンガーさんって怪人退治のイメージが強かったけど、こういう慈善活動も参加するんだ。
わたしは改めて感心した。
今は落ち込んでいる人達も、きっといつかは心の傷が癒えるだろう。
現実は厳しいけど、わたし達は強い人種のはず。
必ずみんなで力を合わせて復興していくだろう。
わたしは、いくらか晴れた気分で市街地を後にした。
続く
公開:2017/01/22/日
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