「波紋」


「えぇ!?日和…若利君と付き合ってたの!?」
「う、うん。実はね〜…そう、2週間位前から…かな…。」
「う、うそ…あの三大エースって言われてるウシワカこと牛島若利君よね!?母さん間違ってない!?」
「え?う、ん…間違って…な、いよ。」
「大変よ…ビッグニュース!ビッグニュースよ、光ーっ!」
「どしたのー母さん。」
「日和がね、日和がね…!」


想 像 以 上 の 大 フ ィ ー バ ー 。


やばいやばい、お母さんのこのテンションはやばい。


「姉ちゃん…マジなの?」
「!…ひ、光。」

わなわなと震える光。
目尻に若干の涙が光っている。

「…っ。」

何か言おうとして、それを堪えたように見えた。
それから、フッと微笑んだ。

「…幸せに、なってね。」

何かを振り切るように走って階段を上って行き、バタンと扉を閉める音がした。

「…?…!?」


「…あの、日和。謝りたいことが…。」
「え?」

数秒後、入れ替わるように母再登場。

「2週間前からってことは、その…私があの時、早く彼氏紹介してって言ったとき…あの、言い出しづらかったの…?」
「え?あ、えっと…そ、それは…。」
「ごめんねっ…!日和っ!変な心労を…っ!」
「や、それは、…。」
「日和っっ!愚かな母を許してちょうだいっ!」
「へ?あ、お…お母さん!?」


私は、混乱した。


なに、…この、我が家の大混乱…。



その日の夕飯時の空気は、めちゃくちゃ重かった…。




翌日。

「…あー、おはよー、雅ちゃ、」
「ちょっと、日和!!あれホントなの?」
「…え?…え??」

教室に入ってくるなり、突っかかってくる友達の雅ちゃん。
その勢いに圧倒され、私は言葉を失う。

「あいつのこと!…ウシワカよ、ウ・シ・ワ・カ!!」
「へぇっ!?」

唐突に、縁のない人から渦中に立つ人の名前が飛び出て、私の心臓は大きく跳ねた。

「付き合ってるって、ホントなの?」

さらに彼女の口からは驚くべき言葉が。

「…!?ど、どこで…そそ、それ…っ!」
「ウチのお母さん!あんたのお母さんから聞いたって、昨日言ってたよ?」

お母さーーん!!早すぎいいい!!


「えっ日和ちゃんそれほんと!?」
「マジか!白森、牛島と付き合ってんのか!」
「なんかすげーデコボコって感じ!」
「あのウシワカと白森ちゃんかぁ〜なんかおもしろーい!」
「そ、そんな…。ありえない…!」
「うそよ…!ウシワカ様と…!?」

「…え、あ、あの…その、あのね…、」


教室はやんややんやと騒がしくなり、私には全く弁明の余地なし。


お母さんを安心させるための嘘だったのに…こんなに広まっちゃうなんて!!


「おいおい、廊下まで響いてるぞー。どうしたんだ、この大フィーバーは?」

教室に担任の先生が入ってきたことにより、一旦は騒ぎが静まる。

「ったく、高3にもなって、お前らなぁ…受験控えてるだろうに…。」
「でもさ、先生。あのウシワカだよ?」
「ビックリですよね!?白森さんが!」

「…な、なんだと!?」

牛島若利は、我が白鳥沢学園の宝。
さすがの先生も、動揺を隠せないようだった。



空き時間。
私は、背中に壁、数人の女の子を前に、完全に萎縮していた。

「…ごめんなさいね、突然呼び出して。」
「私たちは、ウシワカ様親衛隊。牛島若利様を応援する、女の子達の会なの。」
「どうして呼び出されたか…わかるわよね?」

「…は、い。」

今にも摩り切れそうな声。
リーダー格らしき女の子が、はぁ、とため息を吐いた。

「…こんなこと、ウシワカ様の幼馴染であるあなたに言いたくはないの。でもね、幼馴染のあなたは、それだけでも十分にウシワカ様のお近くにいられるわ。みんなあなたを羨ましがっている。それに留まらず、あなたは恋人という立場まで得た。…私たちだって、選べるならウシワカ様の幼馴染という人生を選んだに違いないわ。でも、そんなの選べるわけないでしょう?なのにあなたは運良くウシワカ様の幼馴染として生きてこられた…。それ以上のことってある?つまりね、恋人にまで、なる必要はないじゃない、って話なの。
無茶苦茶言ってると思ってもらって構わないわ。だけどね、ウシワカ様は、私たち親衛隊だけじゃない、みんなの宝。国の宝なの。…私たちの裏切られた気持ちも…少しは知って欲しいのよ。」


…うん、無茶苦茶だね!?
親衛隊怖いよ!
普通に読み飛ばすよこんな文字の嵐!!


とりあえずお説教だけで済んだ私は、足早に教室に向かった。

しかし、小走りしながら、私は彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。


…国の、宝。



…私は、もしかしてとんでもないことをしているんじゃ…?


「日和。」

唐突に降ってきた言葉。
あぶない、ぶつかるもころだった。

「す、すみませ…、」

ピタリと足を止めて見上げると、そこには…。

「あ…、若…。」
「どうした、そんなに急いで。ぶつかったら危ないぞ。」
「ご、ごめんなさ…い。」

国の…宝…。
牛島若利。

どうした?と心配してくれる若。

「…ああ、そうだ。実は朝…、」
「ごごっごめん!わたしトイレ…っ!我慢!してたから!」

反射的に、若の言葉を遮って、ダッシュで逃げた。


「…日和?そんなに我慢してたのか…。」



続く


公開:2016/11/14/月


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