「死ねるわけがねえ!」


「俺はもう…死んでもいい。」
「虎、死ぬの?そっか。じゃあね。」
「うおい、研磨ァ!せめて引き止めて!」

放課後。
今日もいつも通りに部室で着替えていた。
俺はひたすらあの転校生ーー白森日和さんのことを考えていた。

その気の緩みからか、同期の孤爪研磨に独り言を聞かれてしまった。


「なんでせっかく決めた覚悟を揺るがさなきゃいけないのさ。」
「本気で死のうとしてるワケねーだろうがよ!俺には…まだ、やり残したことが沢山あるんだ…!」
「童貞のまま死ねないってこと?」
「おい何言ってんだ研磨!!まぁそういうことなんだが…って、違う!俺が言いたいのはバレーの…、」

「おい、お前らうるせーぞー。さっさと着替えちまえよー。」

ヒートアップする口論に水をかけたのは、主将の黒尾さん。

「!は、はい!スンマセンっした!おい、研磨もあやま…あれ!?いねェ!」
「研磨さんならもう行きましたよ?」
「アイツぅ!」

スポンと半袖から頭を出した芝山に言われ、俺は慌てて制服をカバンに詰め込んだ。


「つーか、山本さん。なんでもう死んでもいいとか言ってるんスか?」

リエーフがハーフパンツに長い脚を通しながら、訪ねてくる。

「なんかいいことでもあったんですか?」

犬岡まで、靴紐を結びながら言う。
彼らも全く女の子との噂すら立たない連中だ。
それに比べ、俺には春の足音が…。

「おう、それが…。」

いや待て、これは彼女が来た時にびっくりさせるために、秘密にしておこう。

「ふふふ、後のおたのしみだ!」

バチンっとウインクして(出来てたかわからないが)、俺は部室を後にした。
部室からは、ヒエーとかうわぁ…みたいな声が聞こえたが、そんなことは気にしていられないのだ。




つづく


公開:2016/11/14/月


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