欲求不満



ガタッ、カチャカチャ




やばい。




カタカタ、カタッ




ムラムラしてきた。





「……ふぅ」

スパナが無機質な機械音以外の音を出したため、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
どうやら、作業が一段落ついたようだ。

よし、言うなら今しかない。

「ね、ねぇっ、スパナ!」
「ん?」

振り向いたスパナにじっ…と顔を見つめられ、私は言葉が出なくなる。


「……ご、ごめんっ!なんでもない……」

そうか、と呟いてパソコンに向き直ってしまった。

しかし、いざスパナの顔を見ると言えない。
いや普通、いつもの会話トーンで「セックスしよっ♪」なんて言えないか。


考えてみれば、今の作業を始めてから10日経った。
つまり、私は10日間ずっとスパナに放置されている。

あ、もしかして、放置プレイってやつ?
あぁなんかそう考えたら興奮してきた……。
……って、いかんいかん。
私はMではないのよ。
……ん?いや、Mなのか?
いやいや落ち着け私、私はスパナに愛されたいだけ。
いじめられても興奮するのは、Mだからとかじゃなくて、相手がスパナだから何されても許せるし興奮するのであっていやでもいつも全然構ってくれないスパナと毎日一緒にいるのって最早毎日が放置プレイでスパナがスパナスパナ……


「落ち着け私」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も」
「そうか」


あぶないあぶない、なにこれ禁断症状?笑
気を取り直して作戦を練ろう。
直接言うのは恥ずかしい。
なら、やっぱりアレに向かう雰囲気を作りたいところだ。
自然にそういう雰囲気にするには……何が必要だろうか。

頭を捻っていると、スパナはすっくと立ち上がる。

え?まさか…心の声漏れてた!?


「正一んとこ行ってくる」

…なんですと。
私が固まっていると、スパナは首を傾げた。

「作業終わったから」
「……あ、う、うん。お気を付けて」

スパナは気だるそうにブラックスペルの隊服を探し出し、作っていたらしいちっちゃなモスカの試作品を抱え、器用に着替えながら(と言っても作業着の上から羽織るだけ)出ていった。


「……。」

作業場に一人取り残される私。

……そうだ、これしかない。




「ただいま」
「……あっ、おっおかえりっ!スパナっ!」

ひきつる笑顔。
スパナは不思議そうに私を見た。

「……どうした?」

あっ、なんかグサッとくる、その言葉!
どうしたじゃないわよこっちはムラムラしてるってのに。
ムラムラがムカムカに変わりかけた時、スパナは"それ"を手に取った。
心臓が跳ね上がる。

「……ほー」

スパナはまじまじと手元のそれを観察する。

それとは…………AV、である。


AV……アダルトビデオ。
何故そんなものがスパナの作業場にあるかって?

実はこの間……


『よぉー、すずめ。久しぶりだなぁ』
『γ!……って、その紙袋なに?』
『あーこれか?これはな、野猿の成長の証だ』
『へ……成長?』
『ほれ、見てみろ』
『……!!!』
『ははは、すずめにはまだ早かったか?どうだ、スパナにでもプレゼントしてやれよ。アイツは…そうだな、こういうのどうだ?』
『えええええ!?いいいいや、そのそのっ、すっスパナのは過激なやつイメージがなくてアレで』
『プッ……お前動揺しすぎだろ。いいから、テキトーに持ってけ!いつか何かの役に立つだろ』



ありがとう今役立たせるね、γ!!!
言い出す機会もなく、忘れたり思い出したり繰り返していたけどね。
それにしても野猿、あの量一人で消化したのかな。
勝手に持ち出すγもγだけど、なんか、野猿の見てはいけない面を見てしまった気がするよね。


さて、スパナはというと、どうしてもスルーできないように、私がスパナの座布団の上に置いたAVを見つめている。
ふと私の方を見ると、ニヤリと笑った。

「すずめもこんなのに興味持つのか」
「……っ!」


恥ずかしさで死にそう。
しかし、ええいどうとでもなれ!


「みっ、見ようよ」


わああいっちゃったーいっちゃったー!
スパナ「は?」って思うよね絶対……。
言わなきゃよかったー!
気持ち悪がられるくらいなら言わなきゃ……

「いいよ。どれ見たい?」

…え?
予想外でした。
スパナの考えていることが読めない。

「え、ど、どれでも」

動揺しながら答えると、スパナはじゃあこれにするかと丁度手に持っていたブツのパッケージを開けた。
起動していたパソコンにディスクを読み込ませる。

当たり前だけど普通に再生される。


……

『あっ、ぁっあ!』
『おいおい、レイプされてんのに感じてんのかぁ?』
『ハッ、この淫乱女が!』
『あううぅ……ひっ、ひぁっ……あぁっあっ!!』

集団レイプものだった。
しかも、この女優さん演技さがひしひしと伝わってきてなんかつらい。あと喘ぎ声が単調すぎる。

男優が中に出して女優がぐったりしたままそのAVは終わった。

なんとなく、心に風穴が開いたような気分になった。


「次見る?」
「えっ」

ちょ、なんで普通なのスパナ。
男ってこういう作り物で興奮して抜くものじゃないの。
なによ「次見る?」って。
余裕か。余裕らしい。




そしてもう一枚が再生される……。懲りろよ私……。
てか今現在もあの時のムラムラがまだ継続しているのかどうか自分でも危うくなってきてるよ。

二枚目のAVは恋人設定の女優と男優が彼氏の部屋で濃厚ベタベタラブラブえっち。
声はあまり出さず、むしろ抑えたりしている。
さっきと違ってリアリティーが高く、こっちまで恥ずかしくなってくる。
映像をちら見しながら、この二人が私とスパナだったら……とか妄想すると、体が火照ってドキドキしてくる。

一人でキャアァってしていて、ふとスパナを見ると、いつもの真顔で口モゴモゴ飴コロコロしてた。
こんなときでもポーカーフェイス!?と思わず突っ込みたくなるのを我慢する。

いや、もしかしたら平静を装ってるだけで実はやばかったりして……。

そんな一縷の希望を抱いてスパナの下半身に目を遣る。



私は両手を床について「ガクーッ」のポーズを取りたくなった。

勃って…………ない…………。


それはもう、成人男性として大丈夫なのか?
生殖本能を持つ生物として大丈夫なのか……!?

よし、こうなったら……。

私は、ねっとりとした動きで体を擦り寄せてみた。


「どうした?」

どうしたじゃないよ。
なにこの人嘘だろ……。

いろいろ深刻になっていると、スパナがポツリと呟いた。

「画面の中じゃ興奮しない」
「……え?」
「ウチ、すずめじゃなきゃ勃たないし」
「……!」

はわわ。
まさかスパナの口からそんな言葉が聞けるなんて……!


……やばい。

ムラムラしてきた。


「すずめ興奮した?」
「し、してない」
「あ、嘘」
「ヒィ」

「シたい?」
「べ、別に」
「スる?」
「うっ…シます」



スパナには敵いません。
ていうか、たいていの人はスパナに敵わないんじゃないかな。


とにかく、こうして私は念願叶って美味しくいただかれたのでした。


おしまい。




公開:2016/03/06/日


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