もふもふ
首の辺りのくすぐったさに、離れていた意識が戻ってくる。
眠りに落ちる前と比べて、少し重みがかかっている。
それに、ぬくぬくあったかい。
この暖かさには覚えがある。
首を回そうとしたけど、何かにぶつかってしまう。
目だけ動かすと、首筋の辺りでもぞもぞと動く金色が見えた。
強張った身体をほぐすように、身体に力を入れて仰向けのまま軽く伸びをすると、もぞもぞ動いていた金は動きを止めた。
「…起こした?」
短い言葉だったけど、その大好きな響きと寝起きの軽い心地良さが混ざって、幸せな気分になる。
顔を上げて目が合ったその正体は、大好きなスパナ。
いつもなら恥ずかしくて目を逸らしてしまうくらいの距離だったけど、寝起きで鈍った判断力は、ただただ私を微笑ませた。
「んーん」
それだけ伝えると、そっか、と呟いて再び首筋に顔をうずめた。
頬を擦り寄せてみたり、深呼吸してみたり、軽くキスしてみたり、スパナは、まさに"私を堪能"していた。
「…楽しい?」
少し冷静になってきた私は、スパナに問うてみた。
「楽しいっていうか、補充されていく感じがする」
首筋に息が吹きかかって、ちょっとゾクッとしてしまう。
だけど、これはスパナにとって必要な行為、らしい。
「硬いものいじった後は、無性にすずめのふわふわが欲しくなる」
スパナに言わせれば、どうやら、そのバランスが大事らしい。
私に言わせれば、自分勝手な話だが。
だって、ついさっきまで私が構って欲しかったのに、機械をいじるスパナは私の入り込む隙間なんて与えてくれなかった。
それなのに、いじけて眠っているところにふらっとやってくるんだから。
自由すぎるよ、スパナ。
「……ウチ、幸せものだ」
「!」
「大好きなすずめがいて、大好きなことできて。ウチ、幸せものだよね?」
なんて、突然問いかけてくるんだから、拍子抜けしちゃった。
「……スパナ、好き」
「……ん、ウチもすずめ好きだ」
「…………スパナぁ」
思わずぎゅっと抱き締めると、スパナも抱き締め返した。
何にも縛られてなくて、そんな自由すぎるあなたが大好き。
おまけ
「おい、スパナいるのか?何度通信しても反応ないから心配して……ん?」
正一の目の前には、ソファの上で重なって眠るスパナとすずめ。
その幸せそうな顔に、険しかった表情が一気に緩んだ。
「……締切、早まったって伝えようと思ったけど…、やっぱり明日でいいよ」
近くに落ちていたブランケットをそっとかけて、正一は戻っていった。
fin.
公開:2016/03/06/日
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