前編


「日和ー帰るぞー。」
「はーい。」



わたしたちは、恋人である。


でも。

なんで付き合ってるのかわからない。



いつ付き合い始めたかも思い出せない。

確か、中2か中3だったと思う。


告白の言葉も覚えてないし、もしかしたら明確な言葉はなかったかもしれない。


恋人らしいことも、何もない。

手を繋ぐとか、デートするとか、キスするとか。

何もない。


誕生日だって、おめでとうって言って、ウイダーをあげただけ。
わたしの誕生日も、新発売のアイスを買ってもらっただけ。

それでわたしもクロちゃんも満足したけど。



「ねえ、クロと日和はなんで付き合ってるの。」

「「…え?」」

単刀直入な質問を、該当者2人に直接出来るのが、研磨のすごいところだと思った。


って、それは今関係ないか。

なんでって、そりゃあ…。


…あれ?なんでわたしたち、付き合ってるんだっけ…?



黒尾鉄朗、3年、男子バレー部主将。
白森日和、2年、軽音部。

これだけ見たら、全く共通点がない。

出会いのきっかけは、小学校の時。
わたしは研磨と仲が良くて、研磨はクロちゃんとも仲が良くて。
わたしとクロちゃんも、自然とよく会うようになった。

中学、クロちゃんがバレー部に入って、わたしは親のお古のギターを譲ってもらった。
お互いがお互いのことで夢中になっていた時期のはずなのに、どうして付き合うことになったのか。
思い出せない…。


「…ちょっと気になっただけだよ。そんなに思い出せないなら答えなくていいから。」

研磨はこちらを一瞥もせず、呆れ気味に言った。




「うわー、日和見て見て、お菓子の種類増えてるー!」
「ほんとだ!新しく入荷したんだねー。」

購買でおやつを買いにいく友達に着いて来たのはいいけど、お昼休みということもあって、かなり混んでいて息苦しい。


「えー、マジかよ。」


聞き慣れた声に、ハッとした。
声のした方を見ると…。

「なにさー、いいじゃん。あたしに恩があるんでしょ?」
「あー、ハイハイ。しょうがねーな。」


「…クロちゃん?」


と、見たことのない女子生徒。
女子生徒はクロちゃんの腕を掴み、グイグイと引っ張る。
クロちゃんは女子生徒の頭を軽く小突いている。
傍から見たら、カップルがいちゃついているみたいだ。

「…日和?…あ、あれ、日和のカレシの…。」
「う、うん。」
「え、なにあれ、…浮気?」
「!」

…浮気?

まさか。
クロちゃんに限って、そんなこと…、


無いと、言えるの?


「日和、大丈夫?」
「…!あ、だ、大丈夫だよ!」

あれ?どうしてだろう…。

悔しいとか、ムカつくとか、そういう感情が湧かない。

クロちゃんが、他の女の子と一緒にいるんだよ?

…なんで、なんで……?



その日は一日落ち着かなかった。
気付けばクロちゃんのことをボーッと考えている。


「…で、なんでおれの家に来たの。」
「え…なんでだろ。幼なじみだから?」
「…今初めて、日和と幼なじみって運命を呪った。」
「初めてなら安心したよ。」
「…はぁ。」

研磨は、あからさまにため息を吐いた。
それでも、なんやかんや愚痴や相談に付き合ってくれるのが研磨だ。ほんと、ありがたい。
まあ、わたしも研磨の世話を焼くことがあるから、お互い様だね。

「おねがい、クロちゃんに聞いてよ。」
「そのひととの関係?」
「うん。」
「やだ。」
「えぇええーー…。」
「自分で聞けばいいじゃん。おれなんか介さなくても…どうせ何でもないんだろうし。」
「…え?」
「だって、あのクロだよ?」

研磨はあくまで無機質に、ゲーム機を操作しながらそう言った。


「…わたしだって、そう思ったよ。あのクロちゃんがまさかね、って。でも…無きにしもあらず、なのかなって…。」
「…。」
「人間何が起こるか、わからないでしょ?」
「…まあ。」

あ、否定してほしかったかも。

なんて思うわたしを一瞥して、研磨はまたゲーム機に視線を戻した。
研磨は指先を素早く動かしながら、少し間を開けてから口を開いた。


「クロは、日和が一番だよ。日和と同等のヤツなんかいない。日和以上に大事なヤツなんかいない。」

「!」


全く、こちらを見てもいないのに。
寧ろ、別の作業をしながらの発言なのに。

誰に言われるよりも、説得力のある言葉のように思えた。
それは多分、相手が研磨だからなのだろう。

「…うん。」

おそらく、わたしよりも長くクロちゃんとの時間を過ごしている研磨。

わたしは、研磨の言葉を、クロちゃんを。
信じたくなった。


数秒間、沈黙が流れた。
その沈黙を破るように、研磨は唐突に言葉を発した。


「日和たちってさ、これから特に大きな事件もなく、なんとなく結婚とか、してそうだよね。」
「…け、っこん。」

小さく繰り返すと、研磨は突然驚いたような顔をして、ゲームする手を止めた。

「…?」
「……なに、突然、女の子みたいな顔して。」
「…はぁ?」
「日和、おれが"結婚"って言った瞬間、女の子の顔したよ。」
「…えぇー。」
「ホント。」


"結婚"。
そんな言葉が研磨の口から聞けるなんて、夢にも思わなかった。

結婚…結婚、か。
考えたこともなかった。
わたしもいずれ結婚して、家庭を築くのだろうか。
その相手は、ちゃんとクロちゃんだろうか。
彼以外に、誰がいるというのだろう。

「すると思う?」
「…まぁ。」
「ほんと?」
「え?うん。」
「ほんとにー?」
「…鬱陶しいんだけど。」


その日は、孤爪家の親が不在ということで、研磨に夕飯を振舞ってあげた。
相談に乗ってくれたお礼も兼ねての夕飯。

それから、なんとなく清々しい気持ちで家を後にした。




→後編へ続く



公開:2017/09/25/月


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