目と目


「ねぇ、けんまー」
「…何」
「けーんまちゃーん」
「…」
「無視しないでよ!」
「…うるさいなぁ」

相変わらず、研磨の指と視線はスマホの画面。
今日はせっかく練習も休みで、二人きりで会えると言うのに、研磨は普段通りスマホでゲームをしている。
…まぁ、久しぶりのデートだからって浮れる研磨なんてあり得ないけど。

「でもさ、さすがにちょっと、私のこと放置しすぎじゃない?」
「…」

少しムスッとした顔で、研磨の横に座る。
研磨は横目で私をちらりと見る。
すぐにスマホの画面に視線を戻し、またいじり始める。

私はそれを阻止するように、研磨の顔とスマホの画面の間に頭を割り込ませた。
研磨はさすがにビクッと肩を跳ねさせ、私から目を逸らしてため息をついた。

「…勘弁してよ」
「何が勘弁して、なの!それはこっちのセリフでしょー」

あからさまに腕を組んで怒ってみせる。
だからといって研磨は焦りも困りもしないけれど。

ようやくスマホの電源を切って、クッションの上に放り投げる。
スマホは綺麗な弧を描いてクッションをヘコませた。

「何するの」
「え、何って…」

研磨は膝を抱えて座り直し、顔をこちらに向ける。
突然の質問に私は答えられなかった。
何も考えてなかった。

「…」
「何も考えてないの?」

さっきと立場が逆転してしまった。
私は悔しさに唇を噛む。

「…考えてない」
「そう」

研磨がふい、と視線を外す。
私は、その手がまたスマホに伸びるのではないかと、不安になる。

「けん…」
「じゃあさ」
「?」

研磨は閃いたように顔を上げる。

「しよっか」
「え?」

私がぽかんとしていると、研磨は手と膝をついて私に迫る。
ただならぬ雰囲気を感じて、私はあとずさる。
背中にベッドが当たって、私を追い詰めた研磨は顔の横に手をついた。

「け、けんっ…!」
「何」
「す、するの?ほんとに?」
「嫌?」
「昼間だよ…?」
「うん」

研磨は小首を傾げる。
その仕草が可愛くて、なんだか断れなくなった。
それにしても、研磨ってそんなに性欲強かったかな。
目の前の彼が、今は可愛い研磨じゃなくて獣の研磨であることに、少しだけ背筋がゾクッとした。
ドキドキと胸が高鳴る。
射抜くような鋭い視線に、思わず強く目を瞑った。

間髪入れず唇に柔らかいものが触れる。
ああ、研磨からキスしてくれた。
いつもは私がしたいって言わなきゃしないのに。
唇を啄ばまれ、舌が唇を割って口内に進入してくる。
声が漏れるのも気にせず、私もそれに応える。

ふと薄眼を開けると、ばっちり目が合ってしまった。

「…何見てんの」

研磨はそう呟くと、私の唇をペロッと舐めて顔を少し離した。

「け、研磨ってキスしてるとき目閉じないの?」

率直な意見を言うと、研磨は不思議そうに首を傾げた。

「なんで閉じなきゃいけないの?」
「だって…恥ずかしい…」

私は、そっと視線を逸らす。
研磨の目を見ていると、心の底まで見抜かれるようで、恥ずかしいのと同時に悔しいのだ。

しかし、そんな研磨が黙りこくっていることに違和感を感じる。
ちらりと彼を見遣ると、研磨もまた私からそっと視線を外した。

「…顔見れないよ」
「…?」

「日和の顔見てたいから」

少しだけ、声が小さくなったのがわかった。

ドキドキと、心臓が大きく高鳴る。

「研磨」
「…何」
「ちゅーしよ…」
「…ん」

ゆっくり顔が近付いて、唇が触れ合う。
恥ずかしいので時々、見つめ合いながらキスにおぼれた。


「はぁ…はっ…」
「…日和」
「は、ぁ…研磨…」

研磨の手が私の首元に伸び、ボタンを外してーー


バタン!

「おい研磨、こないだの……あ、日和も居たのか」

「…クロ」
「くっ、クロちゃぁあん!?」

なんとも空気の読めない奴が来た。
私は軽くパニック状態になる。

「クロ、君、最低だよ…」

研磨はじっとりと突然の来訪者を睨みつけるけど、彼は動じない。

「何だよお前ら、ニャンニャンしてるなら言ってくれよなー。それよりほら、これ前の試合のデータ…」

私は盛大にため息を吐く。
研磨も立ち上がろうとして…。

ちゅっ。

「…!!」
「お預け。コイツ帰ったらね」

そう言って、そっと口角を上げた。


「な…にそれ、反則…」


仕方ない、待っててあげようじゃない。



fin.


ネコマなだけにニャンニャンって…まったく。



作成:2016/02/14/日
公開:2016/03/16/水


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