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ずっと、彼の中でわたしはとても大きい存在なのだと思っていた。燐は学校にあまり来なかったし、悪魔だと恐れられていたりして友達なんてわたししかいなかった。燐を怖がらない人は家族を除いてわたしひとりだけだった。だからわたしは彼のよき理解者であると思っていたし、彼の一番の存在だとも思っていた。燐にはわたししかいなくて、わたしには燐しかいない、そう思っていた。
燐を遠くに感じたのは高校生からだった。わたしは学校にもちゃんと行って勉強もたくさんしたから、憧れの正十字に入学することができたけれど、まともに学校すら行っていない燐がなぜここにいるのか不思議でならなかった。でも、燐と学校に通えることが嬉しかった。でも、学校が終わったら塾とやらに行ってたり見知らぬ傷が増えたりしてわたしに隠し事をすることが多くなった。必死で隠そうとしているけれど嘘をつけない燐の顔を見れば一目でわかった。彼の秘密をわたしに共有はしてくれない。彼のすべてをわたしは知らない。
いつのまにか燐の周りに人ができるようになっていた。神木さんや勝呂くん、志摩くん、三輪くんのことを燐は仲間だといった。今まで燐にはわたししか友達がいなかったのに、今はこうやって仲間が出来たことを嬉しそうに話す。


「こないだなんかキャンプにいってさー」


キャンプ?なにそれ?わたし、何も知らないよ。仲間ってなに?わたしよりも大切な存在なの?わたしの存在がどんどんかき消されていくような気がしていた。そのうちわたしなんか最初からいなかったんじゃないかって思うくらい彼の中でわたしの存在は小さく、小さくなっていくんだ。


燐が言う仲間は燐の秘密を知っているの?燐がなぜ旧男子寮に住んでいるのか、剣を持ち始めたのか、生傷が増えたのか。わたしが知らない燐を知っているの?わたしはもう必要じゃないの?燐にとってわたしってなんだったの?


怖かった。わたしの知らない燐が増えていくことが。悲しかった。わたしにとって燐は一番の存在だったのに彼にとってわたしは一番の存在ではなかったことが。わたしは燐が、好きだった。


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