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「別れよう」


そう告げられて崖の上から突き落とされたぐらいショックだったが、それと同時に不思議とほっとした。毎日廉造くんの浮気について頭を悩ますこともなくなるし、女の子に無駄な嫉妬をして殺してしまいそうな憎悪に包まれなくてすむ。そう考えると、やっと終わるんだって安心した。


高校のときに一緒のクラスになって一目みて恋に落ちた。けれど奥手なわたしは話をかけることもままならないまま一年が過ぎた。ただ見ているだけで、想いを馳せてるだけで十分だった。それがいつからか、話すようになって、一緒に帰るようになって、付き合うことになった。一瞬にしてチョコレートが溶けていくような甘い気分になった。廉造くんも、わたしのことを一年前から見ていた。そう聞かされてこれは運命なんだって思った。すきな人が自分のことを好きでいてくれることがこんなにも幸せなものだとは思わなかった。それでも、廉造くんは廉造くんのままで女の子にちょっかいを出していた。最初は仕方ないって、そこも含めて廉造くんが好きなんだって、そう自分に言い聞かせて頑張ってきた。けれど目を瞑れば瞑るほどエスカレートしていく彼の行動。わたし以外の女の子なんて全員消えてしまえばいいなんて、何回思ったことだろう。みんないなくなれって平和主義なわたしがそんなことを思うくらい、廉造くんはわたしを変えていった。

想いを馳せるだけでよかったんだ。これ以上は求めちゃいけなかったんだ。身分不相応の幸せだったんだ。


廉造くんに気づかれないようにひっそりと涙の海に溺れた。崖の上から落とされたわたしの幸せは深海に沈んでいった。

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