haco | ナノ


時刻は深夜0時を回る。自然に囲まれた真っ暗な闇の中ににぽつりぽつりとテントから灯りが漏れている。わたしは声を押し殺すので精いっぱいだった。誰かに聞かれてしまうかもしれないという緊張感とそれをお構いなしにずんずんと突いてくる雪男にひどく興奮している。目が不自由なことにより意識が集中しさらに興奮を掻き立てた。

森の中の任務中、いつ悪魔が出てきてもおかしくないこの状況でわたしたちはなんとも安っぽい愛を紡いでいた。雪男とは付き合っているわけではないが、こうやって時々体を重ねる。雪男のことが好きかどうかと聞かれれば、わからない。けれど彼とのセックスはなによりも好き。何もかもを共有するこの行為が心臓の音を聞くよりえあたしの中に入ってきてはどくんどくんと脈打つものに生きているということが理解できた。何もないこの世界で彼とのセックスだけにわたしは生きている証拠を見い出せることができた。そういえば雪男は嘲笑うかのように上から眺めて触れるだけのキスをひとつくれた。

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