haco | ナノ


全然大丈夫なんかじゃないのに、彼だって怖いはずなのに、大丈夫やってわたしの震えるからだを抱きしめる。好きでもない子に好きっていう志摩くん。いつもへらへらして笑う志摩くん。周りに心配かけないように自分でどうにかしようとする志摩くん。そんな志摩くんが嫌いなはずなのに、今は嫌いな嘘をなだめるように言い聞かせわたしを抱きしめる志摩くんの温もりがあまりに居心地がよかった。ずっとこのまま、嘘を吐いてわたしを安心させてほしい、なんて都合がよすぎるかな。


殴られた右頬が赤く腫れ上がって今更になってじんじん痛む。あのときは痛さよりも殴られたことにびっくりして頭が真っ白になっていた。けれど、殴った父を恨む気持ちにはなれなかった。父もわたしを殴るとき、きっとこのくらい痛かったんだ。手だけじゃなくて心もきっと相当痛かったんだろう。でも、わたしは悪いことをしたとは思わない。だって志摩くんが好きなんだもん。人を好きになるっていけないことなのかな。


このまま二人でどっか遠くへ逃げて、誰もわたしたちを知らない土地へ行って消えてしまいたい。そう言えば志摩くんはそうやな、なんて思ってもないことを言う。でもやっぱりその嘘に今は安心しか感じられなかった。



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