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僕は研究所でモルモットにされて、何も感じず、何も思わずにただただ、生きて、死ぬんだと思っていた。でも、君がいたから僕は始めて自分の意思で生きたいと思えた。君と世界を見たいと思った。君と手を繋いで共に歩きたいと思った。君を守りたいと思った。だから僕は抜け出すことを決意したんだ。

けれどその決意はあまりに惨い結果になってしまった。ただただ宇宙を漂流する毎日。食糧はもう底を尽きそうだった。これじゃあ研究所とかわらない。ただ死を待つあのモルモットの僕と何も変わらない。でも君がいるから僕は我慢できた。できたはずだった。

気付けば船には誰もいなかった。あるのはかつて同胞だったはずの肉と骨の破片と君。そして手には鉄の塊。それはとてつもなく重かった。重すぎて引き金を引けない僕がそのときはあまりに軽く、楽に引けたんだ。

彼女に向かって銃口を向ける。やめて、と好きだった甘くとろけるようなソプラノが耳を震わせる。そんな声で名前を呼ばないで。余計さよならが辛くなるだろう。

やめて、やめて、やめてよ。そう思っても目は彼女から背けられない。ねえ、どうしてこんなことするの?生きるため?そこまでして僕は行きたくないよ。僕は、僕は、俺だ。

両目でしっかり彼女を見つめる。パンっとあまりにも軽く銃声が響いた。ねえ、なんで泣いてるの、俺。



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