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坊も子猫はんも用事があるらしく今日は珍しくなまえと2人きりで帰ることにならはった。嬉しさと悲しさと緊張が混じって複雑な気持ちになる。なまえと2人きりで帰るなんてなん年ぶりなんやろ。中学2年生頃、俺はなまえに告白された。

「わたし、勝呂のことすきなんやけどどないしたらええかな」

こっちの気持ちをしる由もないなまえは恥ずかしそうに顔をほんのり赤く染めとった。それが悔しかった。なんで俺やなくて坊なんや。俺かてずっと好きやった。坊なんかよりずっとずっとなまえのことが好きでずっとずっと思い続けて坊なんかよりなまえのこと知っとる自信がった。俺がこないに好きやのに、なまえは俺のことを選んではくれへんかった。坊がなまえのこと好きなのは知っとった。今更俺の気持ちを伝えたトコでなんも変われへんと思い、いろいろと相談に乗ってあげた。なんで好きな子がどっか行ってしまうかもしれへんのにへらへらと相談乗ってるんや俺。アホみたいや。ほんで少し経って坊となまえは付き合いだした。

「廉造と2人で帰るのなんて久しぶりやね〜」

なんて能天気に話しかけてくるなまえを見てちょっとだけ泣きそうになった。なるべく俺はなまえと2人きりにならへんようにしとった。でないと、もっと好きになってしまうような気がしたんや。けれどそないなことお構いなしになまえはいつも通り仲ようやってくる。俺の知らんなまえを坊は知っとる。それがとてつもなく悲しかった。その笑顔もその唇もその声も髪の毛1本残らず全部の俺のものにしたい。

「あのさ、なまえ…」
「?」
「     」

俺が発しようとした言葉は音に変換されず、ただ二酸化炭素だけが口から出ていった。もし俺が気持ちを伝えたら困ったように笑うんやろうな。



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