高い空を仰ぐように見上げれば、見事な秋晴れの空にぽつぽつと真っ白な雲がいくつか浮かんでるのが見えた。
もう12月を目前に控えた今日も、肌寒い風がもろに顔にぶつかってくる。
「さっむ」
冬生まれの人は寒さに強いという話を過去に聞いた覚えがあるけど、俺は寒いのは嫌いだった。もしかしたら11月は冬と認定されてないからなのかもしれないが、この寒さはどう考えても冬のものだろう。誰に向けてか分からない不満を溢しながら、俺はようやく目的地についた。

「よう、」
声をかけるも返事はない。それは当たり前のことだったので俺は気にせず桶に入れた水を目の前のそれにかけた。持ってきた花を左右に均等に差し入れる。ろうそくを立てて火をつけて、その火を線香にも移せば懐かしい匂いが辺りを漂い始めた。
準備を済ませ、ようやく前にしゃがみこんで手を合わせる。彼女はもう成仏しただろうか。それはここに来るといつも思うことだった。

ここは彼女のお墓だった。まだこの世に生を受けてから十数年しか経ってないのに、彼女はこの世からすぐに居なくなってしまった。交通事故だった。打ち所が悪く、即死だったらしい。
想いが通じ合って間も無くの話だ。俺は普段からは考えられないくらい泣き喚いた。
今ではさすがに落ち着いたが、それでも年に二回、彼女の命日と俺の誕生日にここを訪れるときはあのときの気持ちを思い出してしまう。
彼女の誕生日ではなく俺の誕生日にここに来るのは、彼女がもう年をとらないから。毎年一つずつ彼女から離れていくのが悲しくて、彼女に会いたくなるのだ。
同い年だった俺は、ついに今日五つ年上になってしまった。

線香の煙が目に染みて涙が溢れてくる。もう五年が経つのに、未だに瞼の裏に彼女の笑顔が張り付いている。
そのとき一際強い風が吹いて、ろうそくの火が消えてしまった。
「泣いちゃダメだよ孝介」
その風に紛れて、彼女の懐かしい声が聞こえた気がして、つい空を見上げた。高い空はどこまでも広がってるようだった。

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