閻魔大王にご報告
「大王、大切なお話があります」
「え、鬼灯くんからそんなこと言うなんて珍しいねぇ。なんだかあまり良い予感はしないんだけど…かな子ちゃんはもう知ってる?」
「え?まぁ…はい」
「元々大王の予感は信用ならないので安心してください」
昼食を終えて昼休みも終わりに差し掛かった頃、いつもの場所に座る大王様を見上げながら彼は話を切り出した。いつもと変わらない表情、落ち着いた声。
…私だけ緊張しているみたいで、この人が緊張することなんてあるのだろうかと疑問さえ覚えてしまう。
「簡潔にお話しします。私、かな子さんと結婚を前提としたお付き合いをすることになりました」
「え?えぇぇぇえええ!!!???ほ、鬼灯くんと、かな子ちゃんが!?」
「だ、大王様…声大きいですよ。皆さん見てます…」
大王様の雄叫びにも近い声が響き渡る。声が大きいと私が一言掛けたものの、疎らにその辺に居た獄卒の皆さんがなんだなんだと振り向いた。
報告でさえ恥ずかしいのに、余計恥ずかしくなってしまい思わず視線を下に落としてしまう。
「いやぁ〜、でもこれでワシも安心出来るよ…鬼灯くんは永遠に独身じゃないかと心配してたんだ。わざわざ報告までしてくれて、お父さんになった気分だなぁ」
「以前、篁さんと共謀して私とマキさんをくっつけようとしていたじゃないですか。またあんなことをされると迷惑なので、その対策です」
あぁ、そういえばそんなこともあった気がする。あの時はまだこうしてお付き合いしていなかったから、現世で鬼灯さまと会えたマキちゃんが羨ましかったっけ。
その話を鬼灯さまに振られた大王様はもうしないよと言いながら苦笑いしている。でも、長年鬼灯さまとこうやって地獄で働いていたらずっと独身の鬼灯さまを心配する気持ちもわかる気がした。私は本当に鬼灯さまのお父さんみたいだなぁって思うけれど。
「あら、ちゃんと報告したのねェ。アタシもこれでひと安心だわ」
「…お香さんは既に知っていた口振りですね」
「えぇ、かな子ちゃんから鬼灯様の相談をよく聞いていたもの。仕事以外で話し掛ける勇気がないとか、どうやったら虫嫌いを克服出来るかとか…」
「わぁあー!お香さんそれ以上暴露しないで!恥ずかしいです!!」
「お香さん、近々詳しく聞きたいです」
「鬼灯さまも興味持たなくて良いですから!!」
偶然通り掛かったお香さんのお陰で鬼灯さまは私が今までお香ちゃんにしていた相談内容に興味津々だ。本人に聞かれてしまうほど恥ずかしいことはないので、必死に止めようとしたけど鬼灯さまのことだから私が知らないうちにいつの間にか聞いていそうで怖い…
「結婚式なんてウルウルしちゃいそうだよ〜。子どもが生まれたらワシにも抱っこさせてね?」
「気が早いですよ〜…本当に、ここ最近お付き合いしたばかりなんですから」
「…子どもは私に似ないで欲しいですね、切実に」
「フフ、でも鬼灯様の小さい頃は可愛かったから似ても良いんじゃないかしらぁ」
揃いも揃って皆さんお気が早い。照れくさいというか、なんというか変な感じがするような。
この間まではこうやって報告出来るなんて思ってもみなかったけど、これだけでも幸せで堪らなかったりする。今まで想いを寄せていた人が、こうして唯一の上司にきちんと報告してくれたのだから。
「そうそう、せっかく彼女が出来たんなら鬼灯くんはちゃんと休みを合わせてあげなきゃね。しょっちゅう休日出勤してるんだからさ」
「それはどっかのアホのせいで私の仕事が無駄に増えるからです。ですが、そう言って頂けるなら大王には一層働いて頂きましょう。良い機会です」
「今さらっとアホって言われたような…頑張るけどお手柔らかにね…」
「わ、私は気にしませんから大丈夫ですよ!」
「かな子ちゃん、それくらい甘えたりわがままだって言って良いのよ。彼女なんだから、ね?」
お香ちゃんがにっこり微笑んで私の肩をぽんぽんと叩く。改めてそう言われるとなんだか恥ずかしい。甘えたりわがまま言ったりとか今の私には少し難易度が高いけど、少しずつ恋人同士らしく接したいなと思った。
その話を聞いて大王様は微笑ましいねぇ〜とにこにこ笑っている。
「かな子さんは気を遣いすぎる面がありますからね。言われてみれば、もう少しわがままを言ってくれても良いとは思っていました」
「は、はい…努力します」
「これからも相談はアタシにまかせてね」
こうやって頼りになるお香さんが居れば心強いな、なんてずっと前から思っていたことだったけど改めて実感した。大好きな人と結ばれて、大王様も喜んでくれて、友達も支えてくれる。…幸せだなぁ、本当に。
「今日はお疲れ様でした。報告の際は緊張していたようですが」
「お疲れ様です。…いくら悪いことをしていたわけじゃなくても大王様への報告は緊張しました」
「今後噂を聞き付けたり、一緒に居るところを見られると色々聞かれるかもしれませんが頑張ってください」
なんとも他人事な…多分この人は付き合っているのかどうかを聞かれても何の躊躇もなくさらっと事実を認めるだけたから、恥ずかしくなったり焦ったりなんてしないのだろう。その余裕が羨ましかったりする。
「鬼灯さまは全然平気そうですね…凄いです」
「簡単なことです。私がこうして堂々と居られるのはかな子さんが皆に見られても恥ずかしくない彼女だからですよ」
「そ、そんなこと言ったら…私には勿体無いくらいですよ、鬼灯さまは」
「それはそれは、ありがとうございます」
ほら、やっぱり余裕の態度。平気な顔で恥ずかしいことも言うから、本当に心臓に悪い。
最後の仕事を終えるべく、書類の山を片付けながらまさかそんな話をされるとは思わなかった。
そんなことを考えていると、ふと書類を分けていた鬼灯さまの手が止まったのでどうしましたかと尋ねると顎に手を添えて何かを考える素振りをした。
「…ですが、私とっては心配な要因が一つだけあるので近々手を打っておきましょう」
「心配、ですか…何でしょう?」
「ハァァァア!?くっそ〜、かな子ちゃん可愛いからあわよくばと思ってたのに!!よりによってお前かよ!!」
「あ、あわよくば…そんなこと考えてたんですね、白澤様…いやなんとなく気付いてはいましたけど」
「早い者勝ちです。ですから、かな子さんに何かやらかした時は本気で衆合地獄に堕としますから覚悟しておいてください。」
「…かな子さん、これから色々大変そうですけど頑張ってくださいね」
「あはは…そうですね、頑張らなきゃです。桃太郎さんも毎日大変ですね…」
14/05/20
加筆修正 17/12/28、18/01/05
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