「…千鶴、」

夕焼けに染まる帰り道は、何だかとても物哀しくて。
寂しくて、鼻の奥がつんとした。涙なんかこぼれてないのにごしごしと目をこすると、次の瞬間には千鶴が飛び込んでいた。
驚きに言葉を失っていると、ぱっと顔を上げた千鶴の目尻は少し赤らんでいた。

「何、泣いてたの」
「…違うよ」

帰ろう、迎えに来たの。
そう言って体を離して前を歩き出すから、宙に浮いた手のひらをつかまえた。
双子とはいえ、そろそろ男女差が顕著になっても良いだろうに。
残念ながら俺の手は千鶴のそれよりまだほんの少し大きいだけで、ほとんど変わらない。
そのかわりぴったりと重なるから、悪くはないのだけれど。

「千鶴、」
「…私って、変なのかな」
「?どうして」
「夕焼けを見てたらどうしようもなく寂しくなって、涙が出たの」
「………」
「家にいるのに、早く帰らなきゃって思ってた。…何だかこわくて、寂しくなった」

言うそばからまたぽろぽろと、透明な涙がその頬を走っていく。
ああ、こんな時。つくづく俺達は双子なんだと再認識する。
同じ想いを、違う場所で感じていた。
ただ俺よりもだいぶ感受性の強い片割れはそれをなだめる術を知らなくて、波にのまれて涙を流す。

「大丈夫だよ、千鶴」
「…っく、」
「俺も同じこと考えてたから。だから大丈夫」
「かおる、」
「夕暮れは、黄昏時。逢魔時とも言うけどね。隙間が出来やすいんだ」

鬼である俺達が、恐がるものではない。本来ならば今からが俺達の時間だろう。
でも、寂しさを呼び起こされたことは確かだから。繋いだ手に込めた力を強めた。

「ねぇ千鶴、今日は一緒に夕飯を作ろうか。お前が好きなものを作ってあげるよ」

思ってもいなかっただろう俺の提案にきょとんとして、千鶴の涙がぴたりと止まる。
その唇が、やわらかく弧を描くまであとすこし。





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