「うわ、遅くなっちゃったな」

ちょっと出かけて来る、ただそれだけのつもりだったのに。
せめて頭上に広がる空が晴れていたなら、良い気分で家路につけただろう。

「何なの、この曇り空」

厚い雲に覆われた夜空には、風情も何もあったもんじゃない。

「総司さん、」
「…千鶴」

ひょっこりと、灯りを手にした君が僕に微笑みかけて来た。
考えごとをしている間に家に辿り着いてたんだろうか、いやそんな馬鹿な。
見回した景色は僕らの家からは結構な距離があるもので。

「わざわざ迎えに来たの?」
「…だめでしたか?」
「やだなあ、そんな泣きそうな顔しないでよ。…すっごくね、嬉しい」

僕の一言で、泣く寸前だったくせに、一気に花開くように笑うから。僕もまた口元が緩んでしまう。
灯りを奪って空いた手のひらを包み込むと、僕より遥かに小さな千鶴のそれはすっぽりと収まった。

「星も見えない中歩いて来るなんて、つまらなかったでしょ」
「いいえ?私、曇った夜空も嫌いじゃないです」

隣りから聞こえた意外な言葉に視線を下ろすと、千鶴がやわらかく微笑んでいて。

「目を凝らせば、曇り空にもちゃんと星は見えるんですよ。…ほら」

白い指先がさした先、確かに小さく輝く星が見えた。

「曇り空に星を探すのは、総司さんを知っていくみたいです」
「僕?」
「いつも意地悪で、なかなか掴ませてくれない」
「…ちょっと、ひどくない?」
「でも、慣れていけばちゃんとその優しさを見つけられるんです」

だから、曇った空も好きです。
照れくさそうに、でも嬉しそうに話すから。千鶴がいうところの意地悪な僕は、その耳に囁きを落とす。

「千鶴こそ意地悪だよ。そこはさ、僕が隣りにいればどこでも楽しいって言って欲しかったな」

だって僕は、君が隣りにいるだけでこんなにも幸せなんだ。





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