アドレス整理、スケジュール管理。その為に何より働かせるのは自分自身の頭だ。
音楽はわざわざダウンロードして持ち歩く程聴かないし、カメラなんて殆ど使わない。ゲームアプリなんて、必要性すら感じない。
そんな俺の携帯電話が、こいつだ。

「……………」
「…月子ー?」
「……………」

起きぬけに読み、放った新聞の影からひょこりと顔を出した月子がじとりと俺を見つめる。

「……………」
「おーい、どうした?」

つん、と指先だけで撫でるように触れてやれば一瞬だけ目元がやわらかく細められる。けれどそれはすぐに、鋭いものに変えられて。

「………一樹さんは、どうして私を選んだんですか」

キッとした視線、なのに弱々しい声と表情に今度はこちらの口元が緩んでしまう。

「不満とかじゃないですけど、一樹さんはそうやって、私がいなくたって何だって出来ちゃうじやないですか」

つんとそっぽを向いた月子の言い分は確かに理解出来るものだ。
俺は電話とメールという最低限の機能しか使わない。様々な機能を搭載したこいつにとって、それはひどく歯痒い事実だろう。

「そんなことないぞ?俺の手が回らない部分だって多い」
「アラームの五分前には起きて、確かめるでもなくスケジュール通りに行動して、わざわざアドレス帳呼び出すより速いって直接番号打ち込み出すのにですか?」
「……………」
「最近の人が携帯に依存気味だって言われていることも解ってます。…でもあなたの場合は頼らな過ぎです」

役に立ちたい、頼って欲しい。
たとえ使う者と使われるものの関係だって、そんな想いは生まれるのだと月子は必死に訴える。

「それに、一樹さんはもっと周りに目を向けて耳を澄ませるべきです。残しておきたいと思う景色や、歌が必ず見つかる筈ですから」
「………解った。」
「!」
「なら、お前が教えてくれ」
「え…?」

きょとん、だなんて声が聞こえるような驚いた顔。

「確かにお前の言う通り、あらかたは自分で出来る。だが、今お前が提案した諸々が俺は不得意だからな」

言ってもう一度撫でてやれば、今度こそ月子は嬉しそうに笑った。





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