「…何故お前がそんな事をしている」
「自分で出来ることはやる、が私の信条です」
洗濯された自分の着物と俺の着物、が詰め込まれた籠を抱えて強かに笑う。
先程から姿を見ないと思えば何のことはない、井戸で皆と洗濯をしていたのだ。
「…まだ水は冷たかっただろう」
「大丈夫です、慣れてますから」
言ってまたにこりと微笑み、物干し台へ向かう。水を吸った着物は随分と重いようで、足取りはややふらついていた。
柄ではないが手を貸してやろうか、思案していたところで明るい声がかけられる。
「最近ずっと執務で篭ってましたよね?一段落着いたんでしたら、ちょっと休んで下さい」
縁側に腰掛けた途端に言われてしまっては、中途半端に差し出した手も引っ込めるしかないというもの。
やがて地面に籠を置き、一枚一枚丁寧に伸ばしながら手際良く干していく。
確かに最近やけに仕事が詰め込まれており、部屋に篭り机に向かうことが多かった。あまり言葉も交わしていなかったように思う。
それでもさり気ない心配りを欠かさぬ千鶴に、我ながら良い女を妻にしたものだとほくそ笑む。
頼りなく幼かった背中は、今は風間の家の―――否、俺の妻として随分と立派になったものだ。
それが自身がもたらした変化だというのだから、尚更笑わずにはいられない。
「…千鶴」
「休まなくて良いんですか?」
しかしだ。折角ようやく身が空いたというのにこれでは退屈で仕方がない。
聞き分けのない子供を宥めるような声に些かの不満を抱きながら、音を殺しそっとその背へ向けて歩き出した。
途端、強い風が吹く。千鶴の手で掛けられた着物が、空に舞う。
「あ!」
後ろから腕を伸ばして、濡れた着物ごと千鶴を捕まえる。
「…千景さん?」
「他に誰が居る」
「いえ、そうなんですけど…」
肩に回した腕はそのままに、着物を掛け直し囁いてやった。
「洗濯などより俺に構え、千鶴」