「……………」

にこにこと、至って上機嫌そうに作業に勤しむ千鶴を見つめて早半刻。
惚れた女の機嫌が良いのは何よりだ。それが自分の隣であるならば、尚更。
しかしながら、俺の目に映るのは少々撫で肩気味の小さな背中ばかり。
ちらちらと横顔は見えるものの、いい加減こちらを向いて欲しい。持て余した指先が、空を掴む。
構って欲しいとねだるなんて、とてもじゃないが自分の柄じゃない。
いつだって主導権はこの手にあって、それをちらつかせ駆け引きをするのが俺だった筈。
すっかり狂わされてしまった調子、それでも構わないと思うのはこの背のある風景が自分の望んだものだから。

「千鶴、」
「何ですかー?」

弾んだ返事が返って来るものの、やはりその顔はこちらに向けられない。
ああもう、そろそろ限界だ。
言葉より先に手をかけて、腕の中に閉じ込めた。

「っ左之助さん!?」
「ん?」
「ん?じゃなくて!」
「どうしたよ」
「それは私の台詞です!」

何とか俺から逃れたいんだろうが、いかんせんこの体格差の前に華奢な千鶴の抵抗なんざ無いに等しい。

「…千鶴、」

意識的に声音を落として息を吹き込むように囁いてやると、途端に首筋まで真っ赤にして大人しくなる。
この体温も匂いも、伝わる鼓動も全部が俺のものだと思うと口元が緩むのを抑えられない。

「さ、左之助さ…」
「んー?」
「あの、」
「……………嫌、か?」
「そうじゃなくて…」

千鶴の手を占領していた洗濯物がはらりと落ちて、そのまま指先が俺に触れる。
何かを懇願するような、期待するような、手のひらの感触。

「…足りねぇんだよ、お前が。こっち向いて、俺の相手してくれや」

端から肯定以外の返事は求めちゃいない。色付いた唇からこぼれ落ちる声を掬い取るように、噛み付いた。





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