「千鶴」
「………」
「ちーづーる、」

先程から小難しい顔をして書類と睨めっこする、その横顔は見飽きてしまった。
ああでもないこうでもない、うんうん唸りながら苦心する姿は最初は微笑ましかったのだけど。

「はい、今日はもうしゅーりょー!」
「!平助君!!」
「だーめ」

ふうと一息ついた隙に、机から書類を引ったくる。何だか久々に見た千鶴は、驚いて俺を見つめていた。
腕を伸ばして、とてもじゃないが届かない場所に掲げたら、それは途端に少しの怒りを含む。

「だって最近お前、ちゃんと寝れてないじゃんか」
「え」

疲れてんのにいつもみたいに笑って、無理してあちこち走り回ってるんだ。気付かない訳ないだろ。
ぎくり、そんな音が聞こえたかと思うくらいに動揺した瞳。それに俺はにこりと笑って、書類を放って千鶴の両手を捕まえた。

「やっぱお前の腕ってほっそいのな」
「へいすけ、くん?」
「手もさ、子供みてぇ」
「っ」

そのまま俺の頬を寄せたら、千鶴のそれが真っ赤に染まった。触れているのは手のひらなのに、どくどくと鼓動が伝わって来る、そんな錯覚。

「お疲れ」
「へ」
「お疲れ様、千鶴」

ゆっくり身体を抱きしめて、ぽんぽんと落ち着かせるように一定の速度で背中を叩く。

「だめ、眠っちゃう、から」
「良いって」
「だめなの…」

ゆるゆると千鶴の手が俺の着物を掴んで、引きはがそうとするけれど。元々の男女の差と、疲労と眠気で弱々しくなった力にそれは敵わない。

「頑張る時は頑張る、疲れたら休む!当たり前だろ」

少し身体を離して笑って言ったら、千鶴は未だ不満そうな顔で俺を見上げて。

「…いなくなったら、嫌だよ。私が、寝ても、傍にいてくれる?」
「勿論だって!」

いつも頑張ってる君の休息は、俺が絶対に守るから。





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