「!」
監察方の性質なのか、俺は自分の気配を殺し、また他人の気配のない場所を選んで歩く。
故に、屯所の中でも隊士の出入りが殆どない日当たりの悪い縁側で、座り込む彼女を見つけてしまったのは偶然のような必然だった。
「……………」
「……………」
沈黙が痛い。普段積極的に話す方ではないし、静寂の方が性に合っている。
しかし普段から感情を鮮やかに表す彼女が言葉に詰まる様に、俺は少なからず戸惑っていた。
床の軋みに勢い良く上げられた顔、その瞳に涙の影は見当たらない。
ただ、俯き膝に埋めていたせいなのか、ほんの少しだけ前髪が乱れていて。
「…失礼する」
「!」
一言ことわって、そっと隣に腰を下ろした。
瞳が更に真ん丸に見開かれて、信じられないと言うようにぱちりと瞬きする。
見上げた空は曇天で、元から光の届きづらいここは更に薄暗い。
「………、」
ふいと視線が戻されて、ぽすんと頭も膝に戻る。心なしかその肩は、いつもより小さく見えて。
「…すいません、いつもご迷惑を」
「かけられた覚えはない」
「………嘘です」
「信じなくても構わないが」
言って、そのまま手のひらを頭へ。ぽん、軽く撫でると肩が揺れた。
「君が努力をしていると知る人間は、恐らく君が思うよりずっと多い」
だから、どうしようもない時くらい孤独になろうとするな。大丈夫、だから。
「…疲れ、ちゃったんです」
「そうか、疲れてしまったか」
「頑張りたいと、思うんです」
「ああ」
手のひらを肩へ滑らせる。存外弱い力で彼女は簡単に、俺の懐へ収まった。
触れている箇所が温かくて、そこからじわりと染み込むような感情が緩やかに思考を支配する。
言葉を紡ぐのをやめて身を任せる、脆く華奢な少女。
心配と、庇護欲と、優越感と。ほんの少しの、愛しさが。未だ俯くその額に唇を寄せる、俺の背中を押した。
「大丈夫だ」
だって俺は、ちゃんと君を見ている。