「…んあ?」

誰かに呼ばれたような気がして、いつもよりも格段に速く訪れた目覚めに違和感を覚えた。
部屋を見回しても当然自分以外には誰もいなくて、一体何だったんだろうかと思ったその時。
きしり、耳に届いた床板の軋む音。そっと襖に手をかけて一気に引くと、まだ明けきらない薄闇の中にちょこんとうずくまる姿がひとつ。

「千鶴、ちゃん?」
「!永倉さ、」

声をかけた途端にふにゃりと歪むその表情に眠気なんか一気に覚めて。
とりあえず廊下はまずいと部屋に入れると正座した彼女は今にも泣き出しそう。

「………」
「どした?起きるにはまだ早いだろ」

ついさっきまで寝ていた自分はもちろん、千鶴だって寝間着と羽織り一枚だけ。
触れた肩は冷たくて、一体どれくらいの時間あそこにいたのだろうかと不安になった。

「眠れないのか?」
「……すみません、ご迷惑ですね」
「違う違う違う!そうじゃねぇって」

立ち上がりかけたその手を取って、やっと合わさった視線を真っ向から受け止める。

「あのな、辛いことがあるんなら腹に貯めねぇで出しちまえよ?この永倉新八、千鶴ちゃんのことなら何だって受け止めてやらぁ」

言って腕を広げてやれば、ついに泣き出した彼女が胸に飛び込んで来る。

「〜〜〜我慢、してたのに…」
「そんな辛いだけのことすんなって。甘えろ甘えろ」

ぐすぐす泣くちっちゃい背中をぽんぽん撫でると、着物を握る力が強くなった。
悪い夢でも見たんだろうか、自分より遥かに繊細そうな心を想う。心臓は痛いくらいに跳ねてるし、めちゃくちゃ緊張してる。でも、追い返すなんて出来なかった。
あやすみたいに抱きしめたら、ようやく落ち着いたらしい千鶴ちゃんの体から力が抜けていく。

「もっかい、おやすみ」

そのまま俺も目を閉じて、一緒に眠りに落ちていく。
日が昇ったら、思いっきり笑って君におはようと告げよう。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -