「………」
「どうしました?歳三さん」

どうしました?じゃない。
白い頬は桜を散らしたように染まり、月色は熱を持ちとろんとこちらを見上げて来る。
自分も決して強い方ではないが、千鶴はそれを遥かに越えて酒に弱かった。
何故なら彼女が口にしたのは、猪口二杯程度。よほど耐性がないのだろう、口にした途端に理由もなくにこにこにこにこ微笑み出し、何かにつけてくっつきたがる。
些か物足りないとすら感じる程に恥ずかしがりな普段を思えば、ついつい自分も口元が緩んでしまうのだが。

「お前…酔ってるな」
「そうですかー?」
「かー?、じゃねぇよ」

苦々しく吐き出したため息にも、緩みきった笑い顔で応えるものだから始末が悪い。
折角もらった酒だから勿体ないと、わざわざ開けなければ良かったと思う。しかし、小さな子供のように笑い甘えて来る千鶴が可愛いと思ってしまうのも、事実だった。

「歳三さん、」
「何だ」
「歳三さん、」
「………」
「ふふ」

先程からずっとこの調子。でも、普段気を張りがちな彼女がこうして力を抜けるなら酒も悪くはないと思う。
手にしていた猪口にくちづけて、少し温くなったそれを飲み干した。

「楽しいか?」
「はい、とっても」
「…そいつは良かった」
「歳三さん、」
「?何だ」

姿勢を正した千鶴がぽんぽんと膝をたたいて、にっこりと笑う。
思う存分甘えた次は人を甘やかしたいんだろうか、断る理由もないので大人しく膝枕に頭を降ろす。
髪を梳く指先がいつもより少しだけ温かくて気持ちが良い。

「千鶴、」
「はい」
「…千鶴、」
「何ですか、歳三さん」

小さな手のひらをつかまえて、唇で触れる。見上げた月色が穏やかで、何だか無性に嬉しくて。
腕を伸ばして、そのいろを自分の元へ導く。ふわり香った酒の香りは、一体どちらのものなのか。酒に酔ったのは、どちらの方なのか。





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