「あー!総ちゃん帰って来たー!!」
「総司遅えよー!!」
「あ、沖田さん…お疲れ様です」

今日の巡察は昼の担当。面倒だから縁側で昼寝でもしてたかったのに、面倒なのに見つかってしまった。
仕方なしに街を見回って屯所に帰って来ると、見慣れた後ろ姿が三つ。
いつも遊んでる近所の子と、居候。

「総ちゃん総ちゃん、お帰り!」
「はい、ただいま。何、君が相手してくれてたの」
「えっ、あっ…はい」

散々斬ると脅したせいか、彼女は僕を見る度に怯えた瞳を向ける。
今だって僕の姿を見つけた子供達が駆け寄ってじゃれて来るのを、一定の距離をおいて見つめていた。
ちょいちょい、と手招きすると肩がびくっと揺れて体が強張る。

「やだなぁ、そんなに怯えないでよ。僕傷ついちゃうな…」
「っ!!」
「総ちゃんいじめないでよ!」

わざとらしい泣き真似をすれば、僕に懐いた女の子が頬を膨らませて立ちはだかる。
対してあの子は、ええとね、とか、違うの、と一生懸命。ああもう少し泣きそうになってる。

「総ちゃん泣かせたら、わたしが許さないんだから!!」
「う、うん…えっとね、」

彼女の腰くらいしかない小さな子に目線を合わせてしゃがみ込む、その背中にそっと近付いて。
僕に気付いた女の子に、内緒だよと目線を送る。そして、そのまま。

「っ!!?」

思い切り抱き着いて、のしかかった。

「この子もこう言ってることだしさ、仲良くしようよ?」
「お、沖田さ!!」
「なぁに?」

思いっきり微笑んだら、君は目に涙をいっぱい貯めて唇を引き結ぶ。

「…あの、」
「うん、なぁに?」
「どいて下さい…」
「駄目。…斬るよ?」
「何でですか!?」

何でって、やだなぁ。もしかして僕が気付いてないと思ってるの?

「本当はね、僕とこの子はとーっても仲良しなのに照れてるんだよ。変な子だよねぇ」
「…本当に?」
「うん、本当」
「…今日は帰るけど、もしいじめられたら、絶対わたしに言ってね!!」

ぱたぱたと二人が駆けて行って、あっという間の静寂。
僕に押し潰されそうな君から離れて、そのまま肩に担ぎ上げた。

「沖田さん!?」
「はいはい、怪我人は黙って担がれてよね。左足、捻ってるでしょ」
「!!」

やっぱり。僕が気付いていないとばかり思っていた彼女は、暴れるのをぴたりと止めた。
そんなに鈍くはない。さっきだって、足に負担がかからないように手加減はしたのだから。
袴から覗く足首が、赤く変色し腫れている様に虫の居所が悪くなった。

「…何怪我してるの?君は目を離すとすぐ無茶をするし」
「…すいません…。あの、私大丈夫です!歩けますから!降ろして下さ」
「嫌だよ。何で僕が君の言いなりにならなきゃいけないの」

それにもうすぐ縁側に着く。とりあえず彼女をそこに座らせた。
向き合うと、真っ直ぐな視線が向けられる。その瞳に怯えがないことに、僕は内心安堵した。
そっと手のひらを滑らせて白い頬を撫でると、戸惑いが肩を揺らす。

「沖田さん…?」
「僕がいない所で、何で君は怪我なんかしてるの」

そのまま肩に滑らせて、逃げないように抱きしめた。
細くて簡単に折れてしまいそうな身体の持ち主が、今や新選組の急所を握っているなんて。そんな存在に温かな何かを見出だしてしまった僕自身に、笑う。

「沖田、さん?」
「…べたべたと懐かれたり甘えられるのは、好きじゃないんだ。でもね、痛くて辛いくせに、目の前で平気なふりをされるのは大嫌いなんだよ」

もっといろんな君が見たい。怯えた顔も嫌いじゃないけど、どうせならもっと僕に甘えて見せてよ。取り繕わずにさらけ出して、僕に君を教えて。
興味があるんだ、君の全部に。それは決して、甘く優しいものばかりではないけれど。
小さく羽織りの裾を握る、その手を見つめながら思った。








20090613

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