また今年も、一つ。
渡せないプレゼントが、クローゼットにしまわれる。実はもう自室の押し入れは、サイズも色も様々なラッピングされた箱や袋で埋め尽くされてるのだ。

「…はぁ」

別におかしくなんかない、俺と千鶴は兄妹のように育って来たんだから。兄が妹にプレゼントをやる、そのどこに問題がある?―――まあ正確には、兄妹ではなく従兄妹だが。
一緒に過ごして来た誕生日やクリスマス、沢山のイベント。その度に、一つずつ増えていくプレゼント。
家族や友達に祝福されて、俺が祝わなくたって千鶴の周りには沢山のプレゼントが集まっている。そうしていつも感じる、ほんの少しのあいつとの距離。

同じ日に生まれた同じ顔の俺達。繋がりの名前が兄妹から従兄妹に変わっても、千鶴はいつも愛されて。光りの、中にいる。

お前はいつだって俺に笑って贈り物をしてくれるのに、俺はいつも何も返せないままで。

『薫が私が贈ったものを使ってくれるだけで、私は十分嬉しいから』

あいつはいつも、そう笑うけれど。
積まれた山を見ていると自分が情けなく思えて、悲しくなって来る。
普段お前に対して想っていることを、俺は言葉にしないから。だからせめて、形に残る物で伝えたいのに。

ねぇ俺は、温かい場所にいるお前が羨ましいんじゃない。傍に居たいだけなんだ。
お前のいる場所は眩しくて、俺は近寄ったらいけない気がするから。
誰よりも大切で、大好きなのに。

「…新たな収納場所を探すようだな」

結局今年も渡せなかった。クリスマスが終わり日付は更に一つ足されてる。せめて昨日のうちなら、渡すチャンスもあったかもしれないけど。

「…薫?」
「っ!!」

パタン、とクローゼットを閉めた瞬間俺の背にかかる千鶴の声。らしくもなく動悸がして顔が熱くなる。

「お夕飯出来たから、何度か呼んだんだけど来ないから心配で…」
「…今の、見たのか?」
「え?」
「…見てないなら、良い」

これ以上ボロが出る前に千鶴と一緒に食卓へ向かおう、そう手を離した瞬間だった。

「!!」
「きゃっ」
「千鶴!」

中の山が崩れたようで、重みに耐えきれないといった具合にクローゼットが開いた。そこからは勿論、積んでいた物が雪崩れ落ちて来る。
中には硬い箱もある。俺は千鶴を守ろうと、咄嗟にその体を抱きしめた。

「…痛、」
「か、薫!大丈夫?」
「…千鶴は」
「私は薫が庇ってくれたから大丈夫だけど、薫は…?」

勢いで崩れ落ちた俺達は、床に座り込んでしまう。千鶴が心配そうに、俺の頬に触れた。

「千鶴が無事なら良いから」
「そんな…薫?これ、どうしたの?」

当然のことながら、周りは俺が数年に及ぶ様々なイベントで千鶴に渡せなかったプレゼントで溢れかえっていた。
俺の腕の中でぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、千鶴は不思議そうに辺りを見回す。
ああもう、何て阿呆らしい過程でこうなったんだ。

「…に、だよ」
「え?」
「全部、千鶴に。俺からお前に、渡してやれなかった年単位のプレゼント」

こんな結果になってしまったのなら、今更どうごまかそうと無駄だ。依然俺の頬に触れていた千鶴の手を離し、視線を逸らしてぽつりと告げる。

「…薫…」
「…何」
「どうしよう、嬉しい」

真っ赤な顔で、自分の頬を両手で押さえて千鶴はゆっくりと話し始めた。

「私ね、きっと薫からのプレゼントだから、こんなに嬉しいんだと思う」
「千鶴…?」
「いつも、薫と私の間には見えない壁があると思ってたから」
「…っ、そんなことない」

だってこれは俺の、ずっと言えなかった千鶴への感情なんだから。

「…寂しくさせたなら、ごめん」
「あのね、薫」
「何」
「…好き」

千鶴が、唇を重ねて来る。そうしてまた、強く強く抱きついて来た体を思いきり抱きしめた。
すれ違って、お互い似たような寂しさばっかり募らせて。こんな不器用もお揃いだなんて、笑ってしまう。
望んで、怖がった千鶴の傍らはこんなにも優しくて温かかった。
千鶴、今度は俺からキスを贈ろう。渡せなかったプレゼントの数と同じだけの、お前への想いを込めて。








20091226 / 君の先 茅太

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