俺、相月満(あいづき・みちる)、16才!
 ピッチピチ・フレッシュな高校1年生よ!
 女の子ちっくなお名前だけど立派な男の子なの。
 童貞…そんな些末な事は、放っておいて!
 人生、生きてる限りチャンスに溢れているわ!
 ………たぶん。

 とにかく。


 相月満、ただ今、絶好調に困っております(にっこり!)。

 
 俺の目の前に並べられた、数々の…
 それはもう、数々の、ありとあらゆる…
 え、え、この業界ってコレ一筋なんですか?!って、目ん玉裏返りそうな… 
 世界の広さに、コレの種類の多さに、貧血起こしそうな…
 マジでか。
 ねぇ、本気と書いて読んじゃう?!
 マジっすか。
 ねぇ、その、シベリアの永久凍土よりもビー・クールな、常・無表情を保っている超絶イケて過ぎますメンズのご尊顔が、褒めて褒めて!ボク頑張ったよ!と言わんばかりに、若干崩れているのは…
 ふにゃっと、口元が緩んでいるのは…
 一方で、その壮絶な色気垂れ流し状態(シャツのボタン3つも開け過ぎ!!せめて2つにしておきなさい!)なのは…

 正気ですかぃ!!!!!


 はい!
 俺は今、製パン業界で凌ぎを削る各メーカーが競って出した、実に多種多様なチョコメロンパンの山の前に正座させて頂いている状態でございます。
 押忍!!
 

 チョコメロンパンを間に挟んだ、その真向かいには、不良と名の付く人間が誰しも尻尾を切り取って逃げ出したくなる恐怖の不良大魔覇王こと、全国トップなんじゃね?とその悪名が轟いて止まない不良ティーム「kitty」を束ねる大総長様、鷹藤光(たかとうひかる)様々が、気怠そうに片膝立てた姿勢で鎮座ましましてましましまし…
 ましましまし〜…!!!!!(泣き声)

 健全な一般市民は、目を合わせたら石になるのヨ!目が合ったら最後、冥府へ引きずり込まれて、どんなダーリンの力があっても2度と地上へ戻れない様にされちゃうわヨ!という、オカルトファンタジックな言い伝えに従って、出くわしたら目を硬く閉じ、息まで止めてそっと死んだフリをするべき人が、さっきからずうううっと俺を見つめておりまして…
 俺の、どっからどんなに見ても何の変哲もない、恐ろしくつまらない平々凡々顔を飽く事なく見つめて…あ、あまりに平凡過ぎて自分と違う虫けら過ぎて、逆に珍しいってヤツ?
 ましましまし〜…!!!!!(リバース、泣き声)

 当然、視線は逸らせません。
 逸らしたが最後、どんな目に遭っちゃうんだろうとか、そんなシュミレーションすらしたくない程ものっそい恐怖なんです。
 なんなの…
 なんなの、このひと…
 邦訳したら子猫ちゃん、なんてキャッワイ〜名前のチームでさ…
 俺に選択肢は初めからなかった、ノストラダムスの大予言バリにダークなこ…こっここ…ここっ…こここ告白から、ちょっと経ってちょっとずつ慣れて来たと想ったら急にさ…
 俺に、ベタベタベタべタベタベタ…
 毎日毎日、付きまとって来てさぁ!!
 お昼休みはウキウキ屋上イング、あっちこっちそっちこっち不良ども〜…
 「子猫ちゃん」ティームの、絶っ対毎回!最高幹部さん達が!揃っててさぁ!!

 あぁ、そうだよ。
 俺、言ったよ、言っちゃったよね。
 ついウッカリ、言っちまって語ったさぁ!!
 「満の1番好きな食いもんは?」「チョコメロンパンに決まってるじゃないですか!」ってね!!
 そもそも最初っからチョコメロンパン愛バレバーレだったしさ!!
 「子猫ちゃん」ティームの酋長様と、フツーの会話が少しずつできるようになって来たこと、満…不覚ながらもウレシカッタネ!
 ワンモアリトル、ほんのチョッピーリだけど、ウレシカッタネ!!
 好きな食べものぐらい、聞かれたら誰だって素直に答えるネ!


 そうしたら、このザマでさぁ!!





 1番好きな食べものはイエスチョコメロンパン!
 その日の内に、最高幹部様方筆頭に子猫ティームの皆さん総出でチョコメロンパンをゲットだぜ!
 って、一体どーゆーティーム活動なんすか…!!!!!
 満足そうにしているのは、この目の前の大魔覇王様だけなんですけれども…!!
 手下の最高幹部様以下、皆さん揃って、青筋立てちゃっていらっしゃるんですけれども!!
 何なの、このひと…ほんとう、何なの〜!!!!!

 「……満…?食わねぇのか…?」

 うっ…!!
 いつまでも無言で冷や汗を流し続ける俺を、大魔覇王様は、眉間にすこうしシワを寄せながらもコテンと小首を傾げ、不思議そうなお顔…
 うう…!!
 大魔覇王様のクセに、子猫ちゃんティームの大総督のクセに…
 なんでこんなにムダに美形なんだ、おっそろしくパーフェクトなフェイス&バディを有した完璧無欠クールビューティーが、コテン!とか小首を傾げちゃったら…

 相反し合う最高の資質が同時に芽吹くと、か、かっかっか…かわいく見えちゃうじゃないスか…!!

 どうしてくれるアルネ!!
 アナタ、契約違反ネ!!(意味不明)
 「満……?」
 つか、そのパーフェクト・クールビューティー・ダークネス・ボイスで名前呼ぶのも止めてくれぃ…!!
 背中にクルっつーの!!
 ユーこそ、ガムのCMに出ちゃいなよ!!
 ハミガキのCMだってイケちゃうよ!!
 
 あぁ、でも。
 ちゃんと、言わなきゃ。
 この、未だにワケのわからない「子猫ちゃんティームの総長さんとの(謎の)お付き合い???」期間、いつ終わるか知れない日々の中、悟った事がある。
 このひと、ちゃんと言わないとわかってくれない。
 俺がここで恐怖(主に周りからの視線…!「総長待たせてんじゃねぇよ!」っつー…)に負けて、このアホほど大量に用意されたチョコメロンパンを甘受したら、このひとは次からこれが当たり前なんだって想ってしまう。
 なんせ、何もかもスケールが桁違いの、ぶっ飛んだひとだから。
 
 「……ぅぅぅぅぅ」
 「う…?どうした、満」
 「……ぅぅぅううう〜…」
 「?満…?」
 言え、俺!!
 ハッキリと言うんだ!!
 俺の、俺の気持ち…
 ちゃんと言うんだ!!
 行っけえぇぇぇ―――!!!!!


 「ぅぅぅううう、受け取れません!!!!!」


 瞬時に、空気が変わった。
 主に、周りの。
 目の前のひとは、軽く目を見張っているだけ。
 だからまだ、俺の首の皮は繋がっている。
 ギリギリ1ミリぐらいだけど。
 大丈夫。

 「…満…チョコメロンパン、好きじゃなかったのか…?」
 うっわ〜お!!
 そげな哀しか顔、しないでくんせぇ、お代官さま!!
 じゃじゃ降りの雨の中、深い森の奥に打ち捨てられた、まだよちよち歩きの子犬がクンクン鳴いてる姿とダブるよ、何か…
 胸が、繊細なガラスのマイハートが、キュンキュンしちゃうよ…!!
 でも、ダメ…!!
 俺にはもう、コマツナ様という最高のワンコ様が居るんだからねー!!
 ヤツを裏切れない…負けるな、俺ぇぇ!!!!!

 「ちちち、ちがくてっ…!!俺っ、チョコメロンパン、愛しちゃってますけどもっ…むしろ、心中も辞さない覚悟ですけれどもっ…」
 「……心中……?愛しちゃってる……?満、早速不倫か……?」
 「ひぃっ…!!!!!も、モノの例えでっ…!!それぐらい好きなんですよっていう…あああの、あくまで食べもの相手ですから真剣交際ではないですし…!!…つか、不倫…?」
 こっわぁぁ!!
 怖いっす!!
 ど素人のヒヨコちゃんの俺に、メンチ切らないでおくんなまし!
 …いや、しかし、チョコメロンパンって、まさかの既婚者様でしたっけ…!?
 お相手は、メロンパン!?

 「………違ぇなら良い…食べ物として好きなんだろ?満の為に買って来たんだぜ、遠慮すんな」

 そうだけど。
 そうなんだけど。



 2010-06-25 23:19筆


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