7
コマツナを散歩に連れて行った。
冷蔵庫にあるもの一掃セール丼な晩メシ、無理矢理詰め込んで、腹もいっぱい。
風呂も入った。
コマツナのブラッシングも終わった。
毎週チェックしてるお笑い番組も観た。
明日は別に何の課題もない。
予習なんて、クラスメイトから1頭身抜き出るような卑怯で姑息な真似、俺はしない。
後は。
後は…
手にした携帯を見つめながら、ゴロゴロゴロっとベッドの上を転がっていたら。
「ワギャンっ!ウー…ワンワンワンっ!」
「ごめっ、ごめん、コマ澤ツナ之助様」
同じく寝っ転がって、だらしなーく大の字で寛いでおられたコマツナをうっかり下敷きにしてしまい、大層吠えられてしまった。
「ごめんってば…すみませんでした」
「ウウー…ガルルルっ」
謝っているのに、許してくれそうもない。
「満ちゃん、うるさいわよっ!」
ギャー!!
ママンから扉に何かぶつけられた音が!
恐らくクッションか何かと想われる。
しかも、満ちゃんって俺が騒いでるみたいに名指しに!
「コ、コマ様ぁ〜後生ですからお許しを〜このままだと俺、ママンに何されるやら…」
「ワンワンワンっ!」
っくぬぬ〜コマツナめ、ママンが介入するかも知れんとなったら、人の足元見おって!
俄然元気に吠え始めたコマツナに、俺は仕方なく、仕方なぁ〜く、切り札をチラつかせた。
「………コマツナ様…?コレ、なぁんだ?」
「…!」
途端にコマツナの目がキラリンと輝き、ピタリと吠えるのを止めた。
「コマツナ様が静かにして下さるならぁ〜今夜だけ、差し上げても構いませんけど?いかが致しましょう?」
コマツナは妖しいまでに目を光らせ、コクコクっと何度か頷いた。
「流石コマ澤ツナ之助様、お利口さんですねぇ。はい、アーン!」
ぱかーっと開いたお口に、俺はコマツナの大好きな高級ブランド仕様のおやつ、「ララ様のアフタヌーンティー」と名付けられたビーフジャーキーを、ぽいーっと放り込んだ。
しっぽを振って大喜び、目を瞑ってゆっくりモグモグ満喫しているコマツナに、もう1度謝って頭を撫でた。
「はぁ〜あ…」
再び静かになったマイルーム。
コマツナがモギュモギュ、おやつを咀嚼している音だけ聞こえる。
今度は接触しないように気をつけて、またベッドに寝転んだ。
ぼけらーっと携帯のディスプレイを眺める。
そこに浮かび上がっているのは、鷹藤光のメールアドレス。
帰り際、交換しちゃったんだよね…家族や友達を盾に取られ、魔術に操られて仕方なく、ね…なぁんてダークファンタジーミステリー展開だったら、まだサッパリするんだけどなぁ!
ゴロゴロっとその場だけで転がってたら、至福タイムを無事に終了したコマツナが、「フヒィ〜…」とかおっさんクサいため息つか鼻息?を吐きながら、俺の腹を枕に寝そべって来た。
俺の真似をして、ゴロゴロっと転がってげっぷまでして、まったく天下泰平なコマツナ様だ。
ああ、その上目ドヤ顔で俺様だけど可愛い可愛いコマツナ様、一体俺はどうしたらいいんでしょうね?
「hikarutakatou」、シンプルなアドレスと俺はずーっとにらめっこ。
後はもう寝るだけなのに。
さすさすと、今日1日とにかく大活躍してくれた、ハードワークお疲れ様な親愛なる我が心臓くんの辺りをさすりながら。
ドッキンドッキンしたり、バックバクしたり、ツキツキ痛かったり、ほんとうにお疲れ様。
俺も、ほんとうに疲れた。
こんなに混乱していろんな感情を味わわされたのは、初めてのことで。
そりゃあ、相手が大魔覇王様だから、レベル1の旅人な俺には荷が想いってヤツなんだけど。
何で、それでも想い出すのは、あの照れくさそうな笑顔だけなんだ。
メアド交換の話になった、とうとう家まで送ってくれて(そう言や結局、大魔覇王様の根城がどちら方面なのかお伺いできなかったワ)別れ際の時。
夕陽の所為だ。
きっと夕陽の所為だけど、頬の辺りがごくごく微かに赤らんでいて、すげー…何つーの、アッツアツの濃いカフェラテにとろーんとチョコシロップかけて、ふんわりホイップをたっぷりのせて、コーヒーの熱さで溶けたホイップを味わえる、最初の甘〜い一口…とろける甘い笑顔?みたいな。
「…ギャ―――!!!!!」
脳裏から消えない笑顔を、更にどアップで想い浮かべて、想わずのたうち回った俺にママンとコマツナのダブル攻撃!
「ゥガルっワンワンワンっ」
「満!!うるさいっての!!」
「ハイすみません!!」
クッションを抱き潰して、身悶えして。
俺、もうしっかり、大魔覇王様に振り回されてるじゃん。
魔力に負けそうになってんじゃん。
けど、けどさぁ。
俺如き凡々人一族代表のスーパー凡々人のこと、気づいて、見てくれてた。
まぁ、欲を言えば、カワイイ女の子のほうが良かったけれども。
何やら俺が忘れてる接触事件もあるらしーけれども。
チョコメロンパンが好きなこと。
どこのチョコメロンパンが好きか知ってて、用意してくれたこと。
俺のくだらない、人からすれば心底どうでも良い話を、一言も遮るどころか聞き洩らすまいと耳を傾けてくれたこと。
心に残ることが多くて。
あんなとんでもない甘い笑顔、見るのも向けられたのも初めてで。
何だよ、ウワサの鷹藤光と違うじゃんって。
「…魔力があっても、悪い人じゃないっぽい…んだよな〜」
俺、絆され過ぎ?
騙され過ぎ?
世の中をわかってなさ過ぎ?
不良を知らなさ過ぎ?
自分がバカなのは、よっく知ってるけど。
信じたいって。
いや、ちょびっとだけでも、信じてみたっていいんじゃないかなーって。
惚れただの付き合うだの、奇妙な話は横に置いて、あの不思議な大魔覇王様と、もっと話してみてもいいんじゃないか。
「メール…」
送ってみるだけ、いいよな?
だってその為にメアド交換したんだよな。
だって俺はご馳走になっていて、朝も夕方も送ってもらって、ろくにお礼してないんだから。
言わばミッションってヤツ、義理人情ってヤツよ。
ガンバ!満!!
ベッドの上でびしーっと正座して、俺の正座は1分も保たないんだからと高速で手短にメールを打った。
サービスで俺作成の自信作、ご機嫌コマツナちゃんのルンルン顔絵文字も付けちゃいまっせ!
(レディ達にお見せできないのが残念!)
『件名:こんばんは。
相月満です。
今日はありがとうございました。
チョコメロンパン、最高においしかったです。
おやすみなさい。です。
満(*´ω`*)』
っしゃあああ、ミッションコンプリート!!
もう俺のパワーゲージはHPもMPもゼロよゼロ。
ああ、今日の冒険はほんとうにハードだったわ!!
おやすみなさい、「み!」「星君」愛読者の皆様!!
よかったらたまには「鯉I」にも目を通して下さいませね。
コマツナ様と俺からのお願いでしたー!
寝るぜー「♪ワンワンワン♪わふわふ♪」ってうぉーいコマツナー!もう電気消しちゃってんだからぁ〜空気読んでよーそんなにご機嫌さんなの?
「ウー…ガルルっ」
は?
かと想ったら何を怒ってらっしゃるのか、ベッド装備のライトをぽちっと付けたら、実に不機嫌そうなコマツナが俺の携帯を鼻先でぐいーっと押しやるなり、「フンッ」と鼻息1つ、ぷいっと横を向いた。
あらあら、俺作の着信音が鳴っていたのね。
チカチカ点滅している携帯に脱力した。
こんな夜更けに満に何の用?!
俺は明日、ホットケーキDE朝ごはんなんだからねっ!
ほとんど寝ぼけ眼(自慢じゃないけど、寝るのに1秒だぜ!)で開いた携帯に、想いっきりぶん殴られたが如く確実に起こされた。
『件名:re:こんばんは
俺も丁度メールしようと想ってた
送信寸前で満から来て驚いた
何つーかすげー嬉しい
こっちこそ有り難うな
満と一緒に過ごせてすげー幸せだった
1日で終わりじゃなくてこれからも一緒って信じらんねーけど
すげー嬉しい
今すぐ会いたいぐらいだ
また明日な
おやすみ
光
満の犬だろ絵文字
飼い主に似てコマツナは可愛いヤツだな』
絵文字も(使ってたら世も末だけど!)句読点もない、パッと見は素っ気ないメールだったけど。
俺をおったまげさせて、ダイハードな活躍から漸くお役御免で本来の活動へ戻って貰える筈だったマイハートを、更にドックンドックンと新たなオーバーワークへ誘うには十分過ぎる、破壊力あるメールだった!!
何で。
何でっ?!
チョロっと会っただけのコマツナの名前、あんたみたいな人がちゃんと覚えてんの?!
いや俺よ、先ずそこなんかい!!
つか、つか…
1行目から最終行に至るまで、ツッコミ所満載の問題ある言葉ばかりじゃありませんか!!
オーノー!!
「ぃいっやあああああっっっ」
読めば読む程、全身の血が沸騰して煮えたぎる!!
「満っ!!いいかげんにしなさい!!天誅っ!!」
想わず悲鳴を上げた俺に、遂にママンが怒鳴り込んで来たのは言うまでもありません。
めでたしめでたし。
トホホのホ。
如何せん、こうして俺は、恐怖の大魔覇王様との、まさに転んでは起きるを体現したようなコミュニケーションを始めたのでありました。
何せ初期の俺は、必死だった。
夢の通りになっても、現実的によくシナリオのできた罰ゲームだったとしても、決して動揺しないように覚悟しておくんだって。
2011-10-20 20:51筆[ 22/25 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -