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大魔覇王様に良いように弄ばれてる心臓は、かつてなく盛大に動いて、全身へ血液を送り込み続けている。
こんなにバクバクはらはらドッキンドッキンぎゅんぎゅん動いて、大丈夫か。
ああ、でも落ち着け俺!!
ガンバレ、満!!
フレフレ、満!!
イケメン、満!!
って、破壊的超絶美形男前を目の前に、己をイケメンとか!!
心の中でも自嘲やっちゅーねん!!
くう〜情けなくて自分が哀れすぎて泣けるぜ。
何てかわいそうな俺。
マジ、何てかわいそうな俺。
何の因果で、こんな不幸な星の巡り合わせに生まれたのか。
平穏を心の底から望んでいる俺が、何でまたこんな大物に目を付けられて、対1で関わらにゃーならんのですか。
ほとほと自分の運の悪さに呆れるしかないけど。
これからよっぽど良いことが起こる前触れなんだよね?!
ものっそいとびっきりのギフトが、すぐこの先に待ち構えての災難なんだよね?!
その為の試練だよね。
俺はネロにはならないのよ!
うう、どうせコマツナはパトラッシュじゃないし、既に大魔覇王様の軍門に下ったし!
でも孤独な戦いでも諦めないんだぜ、俺は。
どんな困難にも耐え、いつかこの苦境の日々を笑い飛ばせるぐらい、ハッピーラッキーライフを送ってみせる。
最後に笑うのは大魔覇王様じゃゃねー!
この俺、満様だぜよ!!
正義は勝つに決まってる。
神様がこんな真摯な満を見捨てるワケがない。
わっはっはっはっは、見ておれ魔王め、目にもの見せてくれるわ!!
「満…?」
などと高笑い気分でトリップしていたら。
神がかった美貌が、すぐ目と鼻の先。
2回目のこって〜んと小首を傾げる動作がすぐ間近、想わず激しく仰け反った。
お、恐るべし、魔王め!!
この俺に気づかれることなく、我が至近距離まで物音なく近寄るとはやりおる!!
流石にやりおる!!
つーか、怖っ!!
人が折角、大魔覇王対策練ってポジティブに頑張ってんのに、動揺させんなっつーの。
ちょっとぐらい大人しく待っていられないのかしら?!
これだから異界の御方は話も通じなけりゃ、文化も違い過ぎて嫌になっちゃう!
仰け反った体勢のまま、数歩後ろに下がって、十分に距離を空けた。
一連の俺の動作を瞬きもせず見つめていた大魔覇王様が、ふと、それは寂し気に表情を曇らせたような気がして、いかんいかん魔術にハマってる場合じゃないと、慌てて言葉を繋いだ。
「あ、あのっ、差し支えなければで結構ですので、お尋ね申し上げますがっ…大魔…じゃないっ、ええと、…せっ、せせせ先輩っと、俺って、会ったことない、じゃないですかっ?!ですよね…?
学校は勿論のこと、どこでもすれ違ったことすらない、と言いますか、あのその…俺などと先輩はお住みになる世界が違い過ぎますから、同じ空気も吸えな…いえ、あのっ、そそそそれでっ、学年も違いますし?ななななな、なじぇ、いや、なっ何故、せっ先輩は俺などをご存知だったのかとちょっと想ったものですから、はい…え、えへへ…?チョコメロンパンのこととか、な、何でかなーって、想ったりなんかしちゃって…」
あ〜くっそ、無駄に緊張する!!
ホントまともな会話も成り立たない上、パシリでもサンドバックでもないっていう距離感。
なのに何で今一緒に居なきゃなんないのかマジ意味わかんない!!
もーどーでもいーから、精神的消耗&疲労が激しいから、さっさと化けの皮剥いで本性見せろや!!
投げやりな気持ちの俺の目の前で、大魔覇王様の両頬がいきなり、ぽっと色づいた?ように見えて目を疑って、想わず両目をこすってしまった。
見間違い、だよね?
まさかあの鷹藤光が、照れたりとか躊躇するとか。
天地がひっくり返っても有り得ないよね、うんうん、ニンニン。
きっと夕方の光線の所為だな、満、納得!
さ、そんな些末なことよりも、近隣住民の皆様、読者の皆様、何より俺のミジンコ並みの心臓、用意は良い?
大魔覇王様がいよいよ、いよいよ、本性現しまっせー!
見物でっせー!
とくとご覧あれ、「kitty」総長の鷹藤光のリアル伝説を!
どうせ全部、ぜーんぶ嘘で、ただ俺を騙して引っ張り回して弄んで、犬猫が己よりちいさな虫をいたぶるみたいに、軽い気持ちで遊びたいだけなんだろ?
遠回りして勿体ぶらなくても、さっさと手ぇ出せばいーのに。
意外と面倒ごとが好きなのか、それともちょっと違う遊びを味わいたかったのか。
アンタの真意なんて、どーでもいーけどさ。
怖いけど。
終わるなら、さっさと終わってくれ。
こんなくだらない遊びに付き合ってられる余裕なんて、俺にはない。
すごく冷めた気持ちで、朝の夢が現実になる瞬間を、俺は静かに待った。
見れば見る程、完璧なバランスの美形っぷりを、だけどひどくつまらないものを見る気持ちで眺めながら。
どんなに姿形が美しかろうが、中身のない、あったかい心のない人間なんて、俺には最もどうでも良い存在だから。
鷹藤光はずいぶん無言だった後、その綺麗な顔に夕陽を浴びながら、俺の目をまっすぐに見つめて口を開いた。
「…会ったことなら、ある」
へっ?!
はぁ?!
んなことあるかー!!
天地神明に誓って、遭遇したことも目が合ったこともないってば!!
テキトー言ってんじゃねーよ、やっぱアンタ、ガチでテキトー人間なんだろ?!
「けど、満が覚えてねぇなら良い」
待て待て〜い!!
さり気に俺が悪いみたいになってんじゃん!!
何だよ、そのちょっと寂しそうな顔と苦笑、何なのさ?!
カットカーット、配役間違えてるよっ、アンタは悪役、俺が善良ながら目立たない主役!!
ちょっと作者め、「み!」ばっか書いててコッチの設定忘れてんじゃね?!頼むよ、監督さん!!
「俺は満を知ってる。気づいたら、いつも満の姿を追ってた。こんなに誰かが気になったのは初めてだから、意味わかんなくてイラついた時もあったけどな。
満、よく中庭でメシ食ってただろ?友達とメシだけじゃなくて放課後にも寄ったり、ごくたまにサボってることもあった…屋上からよく見えんだよ。最初は誰が騒いでんのかって想ってたら、いつも満が居て、すげー楽しそうに笑ってた…満も満の周りも、いつ見ても明るくて、笑顔が絶えない。何で満はいつも笑ってんのか不思議で、満の近くに居るヤツらに変にムカついて、惚れてるって気づいた。
受け入れられるとは想えなかったし、今でも信じらんねぇ。お前はまだビビったままだし…忘れてるし?けど、俺の側でも笑って居て欲しいって想ってる、ずっと…。チョコメロンパンはお前が1番よく食ってて、この上なく幸せそうに笑ってたから、自然に覚えた」
ふ。
ふ?
ふぎゃおおおおおーん!!!!!
2011-08-11 22:26筆[ 21/25 ][*prev] [next#]
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