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未だかつて、こんなに静かな昼休みが存在し得たでしょうか。
わたくしは世界に問いたい。
昼休み、しかも高校の昼休みときたら、「ひゃっほーい!待ち焦がれたメシだぁ〜!!ランチタイムだ〜!!イエッフー、超お腹ぺこりんこ〜!!」って誰しもテンション上がるものですよね?
弁当持参組、どっかで買ったもの持参組は、比較的落ち着いた様子でランチメイトと共に悠々とお食事スタート。
購買もしくは食堂利用組は、残り2限分乗り切れるかどうかっつー命が懸かっているから、昼休みのチャイムと同時にそれは必死に教室を飛び出し、我先に!とばかり昼メシ争奪戦へ出陣するのがセオリー。
更に校内に恋人持ち組なんかは、同じクラスならいざ知らず、相手を呼び出すのに大変で、そこらで携帯操作してる姿、クラスまで迎えに来る姿で溢れ返る。
つまり、わーわーぎゃーぎゃーバタバタぎゃはははウフフあははオーイこっちこっちキャッキャ!と、賑やかなのがフツーの状態なワケよ。
昼休みって言ったらさぁ。
まぁね?
十八学園とか諸々のお金持ちお坊ちゃん学校だったら、食いっぱぐれることはないだろうけど。
なんか皆さん、お上品なお育ち故に、胃も小さくて食も細そうだし?
俺だってクラシックが流れる素敵レストランで、イケメンズなウェイターさんやシェフさんに囲まれながら、優雅なランチタイムを過ごしてみたいワ。
「金曜日限定・創作プレート」をはるると一緒に突っつきたいぜ。
ヤ、でもあそこにはなんかワケわかんない集団やシステムがあって、キャーキャー騒がしいんだったっけ。
未知の世界は勘弁願います。
ええと何の話だっけか。
だからウチは、フツーの学校なんですよ。
中学ん時よりは幾分落ち着いて、大人の階段のーぼる〜状態ながら、まだまだ育ち盛りで食べ盛りなお坊ちゃんお嬢ちゃんがゴロゴロしてるワケですよ。
昼休み=どこもかしこも超にぎやか。
1+1は2よりも、ずっと現実味のある絶対的な公式、定義、定理なワケですよ。
それが、ですね。
こんなに静まり返っている。
人出はいつも通りあるのに。
ものっそいたぁくさんの生徒が、あっちにもこっちにもいるのに。
髪の毛1本落ちたって聞こえてきそうな程、しぃぃ―――んと静まり返っている廊下、自然と開けている中央を、もしょもしょコショコショ歩く俺とさとっちのテンション、これ如何に!!
皆、皆、男子も女子も劇画調、あるいは一昔前の少女漫画のような顔でこちらを凝視し、がびーんっとばかり生命活動を停止して 固まっている。
俺達は、キョ●シーですか?
否、俺とさとっちは何にも悪くない。
諸悪の根源は全て、俺達の前を威風堂々と歩き、誰もを廊下の左右の端っこへ避けさせる、無言のドス黒い圧力をかもし出している、大魔覇王様。
学校では名前だけの存在、出会すことなんか有り得ないさ!で知られる、アノ鷹藤光が朝ばかりか昼まで降臨し、新たに召し抱えた下僕っつーか奴隷っつーか最早ミジンコっつーか、単細胞生物2匹を引き連れて、ざっざか歩いちゃってるもんだから、そりゃあ昼休みも昼休みらしくなくなるYOね!
うん、わかるわかるー!!
俺も願わくば、君達と同じ傍観者になりたいよぉおおおっ!!
仲間に入れてくれよぉおおおおおっ!!
悲惨で無惨で散々だ。
あはは、こんな惨めで情けなくて恥ずかしくて心細くて哀しくて面白くなくて暗い気持ち、生まれて初めてだよ。
怯え震え続けるさとっちと、ひっそり手を握り合い、老夫婦が支え合うように身を寄せ合って歩きながら。
ちらっと、数歩前を行く、まっすぐ伸びた広い背中を見上げた。
大魔覇王様は、相変わらず怒っている。
さっき降臨なさってからずっと、不機嫌極まりない。
免疫がちょっとできてきたっつの?
それかこの御方、大変恐れながらわかりやすいのかも知れない。
今朝も、今みたいに、大魔覇王の背中を追うみたいにコソコソとついて来た。
今朝だって、それは虚しかったし怖かったし、決していい心持ちで登校したワケじゃないけど。
全然違う。
鷹藤光は、なんでか怒ってる。
機嫌、ものすごく悪い。
どろどろどろどろ、重苦しく黒い空気を、遠慮なく辺りに発しているから、皆固まるしかない。
なんだっつーの?
そんな空気出されても、どうしようもない。
今までまったく接点のなかった人が、急に昨日から目の前に現れて、急に機嫌悪くされても、どうしようもないじゃんか。
俯いて歩く内に、永遠かと想っていた無味な時間が、唐突に終わりを告げた。
あれ?
いつの間にやら、学校で暗黙の了解になっている、最も危険な一般庶民禁断の魔界、屋上ウエルカム状態になってませんこと?
嘘ん!!
マジで?
ねぇ、マジで?!
目の前に見える、「屋上への立ち入り厳禁」のイカメシイ札の余白に…「kittyの別荘だにゃん!近付いちゃイヤン!」の赤文字が見え…!!
うっそ、まさか、大魔覇王様の目的地、ここですかぃっ?!
「田中」
イヤだから大魔覇王様、恐れながらヤツは佐藤だっつーのぉ!!
ふと振り返って、さとっちに視線を向けたと想ったら、「ふえ?え?え?」とキョドってるさとっちの首根っこを片手でガツーンと掴んで、大魔覇王様は無表情で魔界もとい、屋上への扉を開いた。
「先に行ってろ」
はいぃっ?!
「はいぃっ?!」
オゥー心の友よ、俺の内心の声と同じ反応!!
って、ヘイベイビー、1人でどこ行っちゃ…魔界へ1人旅ですか?!
何て勇者なんだ、グッジョブベイビー。
それにしてもつれないぜベイビー、だがサヨナラは言わないぜ?
俺達はどんなに離れても、心はいつでも一緒、心友バンザイなんだから!!
「光〜?戻ったの〜?って、アレ〜?君、誰?」
そんな声が微かに聞こえたような、聞こえなかったような。
半泣きの顔が青空の下へ去って行った。
魔界へ通じる扉は、無情にも、ガッチャーンと盛大な音を立てて閉ざされた。
そして俺は、気がついた。
再び訪れた、静寂の世界に取り残されて、我に返った。
大魔覇王様と、2人っきり!!!!!
オゥベイビー、いよいよ今生とお別れの時がやって来たみたいだぜ。
泣かないでベイビー、俺は最期まで俺らしく立派に生きてみせるさ。
オゥ、ドントクライ、ドントマインド、ネバーギブアップ。
ふふ!
みちる、とっくの昔っからギブアップ。
イヤ―――ン!!
2011-04-01 22:58筆[ 13/25 ][*prev] [next#]
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