意味がわからない。
 イミガワカラナイ!!
 教室中の生きとし生ける者は愚か無機物に至るまでが永久凍土化、冷え冷えと固まっているのが羨ましくて仕方がない。
 俺だって、固まりたい。
 俺だって、皆と一緒に固まりたい!!

 だけど、突如どこからともなくご降臨なさった大魔覇王様が、まったくもって意味がわからないながら、異常に怒り猛っていることは、とんでもなくよくわかります。
 大魔覇王様が、俺しか見ていらっしゃらないことから、そのお怒りの理由も矛先も全て、俺が原因なんだということがひしひしと伝わってきます。
 まさに、肌で感じるってヤツです。
 空気を伝って感じるあまりのお怒りっぷりに、さっきから鳥肌と震えが止まりませんったら、アハハ!

 アハハハハハ、ハハハ、ハハー…
 わぁぁあああん、怖いよー!!
 ガタガタ震えっ放しで、自然と寄り添い合った俺とさとっちの様子を見て、大魔覇王様は益々その眉間に怒りを現されました。
 ひぃいっ!
 『謝れ…っ!何かよくわかんねーけど何でも良いから謝っちまえ!』と、震えながらも小声で囁きかけてきては俺の後ろ足を蹴飛ばすさとっち。
 
 「なぁ…どうなんだよ、満」
 ひぃいっ!!
 って、あり?
 黙って震えたまんまの俺に、謝罪を求める大魔覇王様は、先程よりも怒気を抑えており。
 相変わらず俺だけにメンチ切ってくる、その瞳の奥に、なぜか苦しそうな、哀しそうな色を見つけて、ガチ飛び上がりそうになった。

 「すすすすすっ、すみませんでした!あああのっ、あのっ、先程のはですね、コチラのボクの大親友、佐藤希(さとう・のぞむ)君との毎日のコミュニケーションの1つと言いますか、ネタと言いますか!えー、あー、ですからつまり僕達のいつものお茶目トークの一環と申しましょうか、ただのじゃれ合いでごじゃいまするので、気味の悪い光景を御目にかけてしまいましたこと、大変海よりも深く反省している所存であり、その、だから、とにかく、ごめんなさい…」

 チーン。

 すもももももももものうち、じゃなくて、もも、もしかして、土下座したほうが良いかしら?
 ももももももしかしなくても、これから俺、クラスの皆の前で公開処刑なのかしら?
 「てめぇみてぇな気色悪ぃサンドバック、俺様の側には相応しくねぇんだよ!」、もしくは「ウゼェ!!罰ゲームなんか終わりじゃー!!」とか言われながら、ボッコボコにされちゃうのかしら?
 わーい!やったぁ!
 なワケないっつの!!

 だけどだけど、これで大魔覇王様から逃れられるのなら、男・相月満、腰は引けまくっておりますが受けて立ちたい…みたいな?
 公開処刑だったら、そんなにヒドいこともされないんじゃないかなーなぁんてね、想ったり想わなかったり?
 ダイヤモンドダストが舞い散りそうな、キンキンに冷えた静かな空気の中、長い沈黙を破ったのは、もちろん大魔覇王様でした。

 すべての決定権は、大魔覇王様に有り!
 イエス!アイムノットニージュー!(意味不明!)
 「……大親友……?」
 ずごごごごご…といった地鳴りが聞こえてきそうな、ゆっくりした動作で、俺に引っ付いているさとっちに視線を移す大魔覇王様。
 『バカー!バカバカー!!みっちーのバカぁん!!』と、どさくさに紛れてバッチリ巻き添えにしてやったさとっちは、俺の後ろ足を蹴り続けながら、今にも口から泡吹いてぶっ倒れそうな青ざめっぷり。

 じいいっと黙ったまんま見つめられて、さとっちの精神力に限界が来たのだろう。
 ペラペラと喋り始めた。

 「ぅおおおおお初にお目にかかります、拙者、佐藤と申しまっする!あわわ…なに、行きずりの旅人です故、どうかご記憶なさいませんように心からお願い申し上げます。わたくし、こここここちらの相月君とは、ただのクラスメイツであり、たまたま!たまったま!この度の席替えで席が近くなりました故、会話を交わすようになっただけでございまして、あああ貴方様が御心配なさるようなことは髪の毛一筋もございませんので、どうか相月君に関しては想うように御自由になさって下さりませ、かしこ!」

 ぅおのれ、さとっちめぇぇぇ――!!!!!
 この人、どんだけ自分がカワイイの?!
 どんだけ自分守っちゃってんの?!
 信じられない!!
 俺だって、さとっちの立場だったら持てる限りの勇気を振り絞り、全力でこの場から逃げ出す覚悟なんだからねっ!!
 俺だって、俺だって、さとっちになりたいんだから――!!
 
 大魔覇王様は、さとっちのチキンハート全開トークに、耳を傾けたんだか何だか知らないが、首を傾げてふーんとか呟いた。
 怒りだか、怒りからくる苦しみだかで染まっていた瞳は、いつの間にか落ち着いた色を取り戻したように見えた。
 目を細め、俺とさとっちを交互に見る大魔覇王様。
 セコセコと、『ほら、行って来い!行って来いったら、みっちー!』と俺を小突くさとっちが小憎ったらしいったらありゃぁしない。

 お前、大魔覇王様が魔界に帰った後、覚えてろよ!!
 貴様の教科書という教科書全部に、エロエロなパラパラまんがを書き殴ってやるぅ!!
 くだらない復讐に想いを馳せていた俺に、大魔覇王様が手を差し伸べられた。
 「へっ?」
 突拍子もない展開に、想わず、マヌケな声を上げた。
 大魔覇王様はもう、ふつうのお顔。

 「昼だ、満。迎えに来た」

 ふぎゃあああああんっ!!
 マタヒルニムカエニクル、健在!!
 朝唱えられた悪魔の呪文が蘇って、ぞぞーっと悪寒が走った俺に、さとっちは『良かったな、みっちー!行って来い、逝って来い!!達者でな〜』と上機嫌で、コソコソと俺の背中を押している。 
 そんなさとっちに、大魔覇王様は視線を向けて。

 「満の親友だったな、鈴木何とか」
 わぁ、もうお名前忘れてるー!!
 「あああああのぅ、コイツ、佐藤希っす」
 間違えちゃダメ!
 俺の親友は佐藤希ダゾ!
 よっしゃ認識されてねぇ!とガッツポーズだったさとっちだけど、そうは問屋が卸しません。
 キミはあくまでボクの道連れなのさ!

 「あぁ、佐藤か」
 ひどく興味なさそうに、大魔覇王様は呟いて。
 「佐藤、お前も一緒に来い」
 にゃんこやわんこにするみたいに、さとっちに手招きされたのでありました。
 ちゃんちゃん、めでたしめでたし!
 どうなる、俺達!!
 手持ちのライフカードは0です!!



 2011-01-23 22:13筆


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